玄関で封筒にキャッシュカードを入れさせ割り印の印鑑を取りに行かせる間に、別の封筒とすり替える手口が増えている(写真と本文は関係ありません)

 金融庁職員を装うため、受け子の20代の男が本部から指定された服装は白色ワイシャツ、ノーネクタイにスラックス姿。昨秋、コンビニのトイレで着替え、千葉県内の高齢女性宅を訪問した。これが初めての犯行だった。

 両耳にはワイヤレスホン。指示役と電話をつないだままのスマートフォンが、ズボンのポケットに入っている。20代くらいの男の声で聞こえてくる“台本”の通り、せりふを女性に話した。「あ、そうですか」。女性はキャッシュカード2枚をすんなり封筒に入れてくれた。

 「意外と簡単にだませるんだな…」

⇒【特集】詐欺グループの実態迫る「受け子その大罪」

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 男が女性宅を訪れる直前、詐欺グループ内で電話をかける役割を担う「かけ子」が警察官を装い「あなたのキャッシュカードが偽造され、口座から現金が引き落とされている」「今から職員が行くので、キャッシュカードを準備してほしい。職員が用意した封筒に入れ、3日間保管するように」などと言葉巧みに女性をだましていた。

 “お膳立て”が整うと、無料通信アプリ「テレグラム」を通して訪問すべき住所が届き、すぐさま出向くよう指示された。

 「こんにちは、金融庁の大野です。○○署(地元の警察署)の○○刑事の件で来ました。これからキャッシュカードの封印作業をしますが、カードと暗証番号を書いたメモ用紙をお持ちですか? 割り印をもらいたいんで、はんこはありますか?」

 直前に電話で復唱させられたせりふ。思ったよりすらすらと言えた。

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 初の犯行はわずか2、3分間。緊張し、心拍数が上がった。女性宅を出ると、手に入れたカード2枚を持ち、指示された現金自動預払機(ATM)へ向かった。1枚で引き出せる上限は1日50万円。2日間で200万円を下ろすことができた。「報酬は引き出した額の8%」。2日間の報酬は16万円の計算だ。

 ただ、既にこのバイトが「犯罪行為」だとは分かっていた。その後も毎回、周囲に警察官がいないか細心の注意を払ったが、「捕まるんじゃないか」という大きな不安や罪悪感にさいなまされた。

 「辞めたい」。こう電話で伝えた。しかし、指示役から「1カ月は辞められない。勝手に辞めたら実家や自宅にカチコミ(殴り込み)に行く」と脅された。「現金を持ち逃げした奴を拉致したことがある」とも言われた。

 抜けようにも既に抜け出せなくなっていた。

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