【論説】「成果」を強調しながらその根拠は示さない。これでは将来に禍根を残すことにもなりかねない。

 日米貿易協定が国会で承認され、来月1日に発効することが決まった。関税が引き下げられ競争力を増した米国産牛肉や豚肉などが日本市場に入ってくる。農家は脅威ともいえる事態にさらされることになる。政府は農家などへの支援策を急ぐ必要がある。

 とりわけ、最大の輸出額を占める自動車に関してはあやふやなままだ。政府は自動車と関連部品について撤廃が前提と強調。協定による経済効果では貿易額ベースで日本が84%、米国が92%の関税が撤廃され、日本の国内総生産(GDP)を約0・8%押し上げるとの試算も公表した。

 だが、協定では「撤廃に向けて引き続き交渉を続ける」としているだけ。野党は自動車関税が撤廃されない場合の試算などを求めたが、政府は拒み続けた。無責任極まりない対応と言わざるを得ない。

 懸念されるのは、撤廃どころか、米国が追加関税を課してくる可能性も残っていることだ。貿易交渉は、米国が輸入自動車への高関税措置を検討すると表明したのが発端。これを回避しようと、日本が2国間交渉に応じた格好だ。

 しかし、今回の協定には「協定を履行している間は、声明の精神に反する行動は取らない」と記されているだけで、米国が追加関税を発動しないとは明記されていない。安倍晋三首相はトランプ大統領と確認したと強調し「首脳間の約束は極めて重い」と述べた。

 だが、トランプ氏が前言を翻すのは米中貿易交渉などこれまでも多々あった。来年の大統領選を前に、さらなる成果を求めて、日本に追加関税を課してくる可能性も否定できない。協定に「安全保障上の重大な利益の保護のためには必要な措置の適用は妨げない」とあるのも、その含みを残したものと読み取れる。

 問題が山積みの協定なのに、あっさりと承認された。与党が数の力で押し切った形だが、野党が「桜を見る会」問題で追及を強める中で、攻め手を欠いた感が否めない。一層の情報公開を求めるといった戦術もあったはずだ。

 米国は今後、サービス貿易やルール分野を含む包括的な自由貿易協定(FTA)を目指し、日本市場の一層の開放を求めてくるのは必至だ。日本は自動車関税の撤廃などを協議していくとしているが、トランプ氏は自動車の追加関税をちらつかせ、農業分野などのさらなる譲歩を迫ってくる恐れもある。日本としては協議を始めたくないのが本音ではないか。国益を大きく損ねた貿易交渉と後に語られる可能性すらある。

関連記事