【越山若水】「冬に水ようかんを食べるなんて、と夫はいう。(中略)東京で暮らしていた頃、それがどこにも売っていないことに戸惑った。憤慨していたというほうが近いかもしれない。それで、帰省した折に買って帰った。冬に水ようかん?などと笑う人にも食べさせたかった」▼福井市の作家、宮下奈都さんの食のエッセー集「とりあえずウミガメのスープを仕込もう。」(扶桑社)から抜粋の一節だ。水ようかんをはさんで夫婦の微妙な温度差がユーモラスに描かれ、ほほ笑ましい▼宮下さんの福井県人としての自負心が遺憾なく発揮されてもおり痛快で思わず留飲が下がった。福井の冬を代表する食だからこそのこだわり、エピソードだと思うとなお一層うれしい▼若狭、南越、大野では「丁稚(でっち)ようかん」と呼ばれる。つるりとした独特の食感の中にも、県内一円で色の濃淡、風味の違いを競い合っており地域色豊かな味が楽しめる。大野商工会議所では地域団体商標に「越前おおのでっち羊かん」を登録する力の入れよう▼食文化研究家の向笠千恵子さんが本紙で連載している「食は福井にあり」で取り上げ、輪島市、七尾市でも冬が旬。日光市では年中販売され、「正月のお重」には欠かせない一品と紹介。福井だけの冬の風物詩ではないことを知った。とはいえ県内巡りに県境を越えての味比べも加えたら、より楽しいだろう。

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