【越山若水】幸田露伴といえば、明治時代に尾崎紅葉と並んで名声を博した小説家である。「五重塔」などの代表作を生み出した文豪が人の生き方を語った一冊が「努力論」(角川文庫)である▼その中でユニークな「幸福論」を披露していて面白い。露伴の高説によると、幸福にもいろいろ種類があるらしい。それが「有福」「惜福」「分福」「植福」。ではこの四つにどんな違いがあるのか。身近で分かりやすい例として、リンゴを取り上げて説明している▼庭のリンゴの木が年々に花咲き実を結べば、甘美な味覚を提供し人々を幸福にする。これが基本となる「有福」。次に果実が長い間収穫できるように調整するのが「惜福」。そして豊かなリンゴができたところで、独り占めせず近所友人に分かつのを「分福」という▼中でも露伴が最も卓越していると推奨するのが「植福」だ。新たにリンゴの種子をまいて成木にしようとする、虫害で枯れかかった木を蘇生する、悪い樹木に接ぎ木をしておいしい果実を実らせる―など、世の人の幸福利益を増進する行為を「植福」と定義している▼同じリンゴつながりの話になるが、台風19号で被災した長野県の農家を支援しようと“訳ありリンゴ”の購入を呼びかける運動が広がっている。木を植える「植福」とは言えずとも、復旧への種まきを応援する「援福」のリンゴになれば幸いである。

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