【論説】越前町は9月、心停止状態の人の救命措置に使う自動体外式除細動器(AED)を、8台ある町コミュニティバス全てに搭載した。特徴的なのは「バスの乗客だけでなく、路上で見つけた急病人などにも積極的に対応する」と打ち出している点だ。いわば「動くAED」。生活路線を行き来する町コミュニティバスに、こうした装備があることは、住民の安全安心につながるだろう。

 AEDは自動で心臓の状態を判断し、必要な場合は電気ショックを与え、正常な状態に戻す機能を持つ装置だ。患者に発作が起きた後、できるだけ早く利用することで救命率が高まる。

 町コミュニティバスへのAED搭載は、町内バス事業者からの要望を受け、町が予算化した。県内市町で2例目の取り組みという。乗務員は消防署の救急救命講習を受け、事前にAEDの使い方を学んだ。

 町コミュニティバスは9路線あり、合併前の旧4町村の生活路線をカバーしている。乗客は高齢者がほとんどで、病院や入浴施設への行き来に利用しているという。AEDがあれば万が一のときに心強いはずだ。

 さらに町は、搭載AEDを広く住民に活用してもらう考えだ。「例えば家で家族が倒れた場合など、バスを見つけて呼び止めてほしい」としている。気付いた乗務員が降りていき、救命措置をするという。

 AEDは一般に学校など公共施設に置いてあり、家庭で備えている例は少ない。AED搭載バスは住民にとって、いざというときの備えが町中を駆け巡っていることを意味し、頼もしい存在となり得る。

 思わぬ副産物もあった。同町出身で医療機器専門商社を経営する富山県在住の男性が、たまたま福井県に来ていた際、この取り組みを新聞記事で知った。「地元への社会貢献に」と、自身の会社で扱う救急キットの寄贈を申し出た。町はありがたく受け入れ、8台のバスに一つずつ配備した。

 キットにはガーゼ、包帯、消毒液などが入っており、交通事故や災害時の応急処置に役立つ。AEDと合わせ、バスの安全安心機能が強化されたわけだ。

 幸い今のところ、バス搭載AEDの使用例はないという。だが、緊急事態はいつ起きるか分からない。こうしたバスの存在が、町民に広く浸透してほしい。車両にAED搭載を知らせるステッカーが張ってあるが、いっそう周知を図ってもらいたい。さらに「安心を乗せ、住民に寄り添って走るバス」が、他の自治体にも広まるといい。

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