審判の判定に声を上げる横浜M・ポステコグルー監督=18年10月27日、埼玉スタジアム

 理想と結果を一致させる。

 筆者の平凡な日々に当てはめるまでもなく、それが困難であることは容易に想像がつく。その、とても難しいことをスポーツにおいて目指すのは、かなりの覚悟がいるだろう。

 常に結果が求められるプロではさらにそうだ。サッカーの世界においても、複数年契約を結んでいるはずの監督が成績不振のためにチームを離れるなんてことは日常的。周囲を納得させるだけの実績とネームバリュー、何よりクラブからの理解を得なければ、一人の指導者による長期政権というのはなかなか実現しない。イングランドの強豪、マンチェスター・ユナイテッドを27年間率いた名将アレックス・ファーガソンを思い出すと、よく分かるだろう。それを考えれば、元オーストラリア代表監督という肩書があったとはいえ、横浜Mを率いるアンジェ・ポステコグルー監督というのは、想像以上に肝の据わった人物に違いない。

 令和最初のJ1リーグを後年振り返るときに、真っ先に頭に浮かぶのは横浜Mだろう。堅守速攻のFC東京でもなければ、したたかに1点を守り切る鹿島でもない。時に大量点を奪われて敗戦することもあるが、リードしながらも守りに入ることなく、あくまでも追加点を狙いに行く横浜Mのエキサイティングなサッカーは、見ていて単純に楽しいのだ。

 かつては攻撃を売りにしていたチームは2000年代に入ると、代名詞を「堅固な守備」と変える。そんな横浜Mの選手たちの意識が大きく変わったのは2年前。就任したばかりのポステコグルー監督が選手たちに語り掛けた次のような言葉だったという。

 「君たちが遊びでサッカーをしていたころに、いつもロングボールが頭上を越えていくのをどう思った。GKもボールを取って(味方選手に)投げたら終わり、ではつまらないだろう。どんなことをしたかったんだ。常にボールに触り、常にボールに関わり、常にゲームに参加する。GKもボールを受けたらフィードする。そうやって、皆が関わり合ったら面白いだろう」

 サッカーを「プレー」する。プレーとは遊ぶという意味だ。ポステコグルー監督は結果ばかりに重きを置かれるシビアなプロの世界に生きる選手たちに、子どものような遊び心を持つことを求めた。勝ち点を積み重ねることを目的とし、1点をリードした残り時間をいかに波風を立てずにやり過ごすかという大人の「作業」と子どもたちのは別物だ。観客としても、あくまでもゴールを狙いに来るサッカーの方が楽しいに決まっているのだ。

 勝ち点1差で鹿島、FC東京、横浜Mの三つどもえの首位争いとなった第31節。札幌との試合は、ともに攻撃志向のチーム同士による試合とあってゴールシーンが多い、楽しい試合となった。開始2分、4分と早い時間帯でエリキが連続ゴールを奪った横浜Mは、守ることなくその後も攻め続けた。そして、2―1で迎えた前半23分にこのチームらしいゴールが生まれた。

 自陣センターサークル付近でマテウスのドリブルが札幌の守備に引っ掛かった瞬間だった。こぼれたボールにいち早く反応したのは仲川輝人だ。

 「自分が(ボールに)先に触れたのでエリキへのパスの選択肢もあった。でも相手がコースを切っていたので。ドリブルと決めた。そこからはイメージ通り」

 札幌守備陣の間隙(かんげき)を突くカミソリドリブル。50メートルを突き進んだ「ハマの新幹線」は、GK具聖潤(ク・ソンユン)までかわして無人のゴールにボールを送り込んだ。

 今シーズン、自己最多のゴール数を更新し続け得点王争いでも3位につける13ゴール目。取り組んできた攻撃サッカーが日に日になじんでいることを仲川自身も実感している。

 「1年目は苦しい時期もあって(ポステコグルー流を)表現できなかったですけど、2年目になってチーム全体の共通理解もできてきた」

 攻撃的なポジションの選手にある程度の自由が認められるなかで仲川は「自分の良さを出せと言われている。それがあって今日の得点があったのかなと思います」と振り返った。

 その後、マルコスジュニオールが自らが得たPKを決めて得点王争いトップの15ゴール目を記録。終わってみれば、4―2で快勝した。優勝争いをしているチームが、4―1となった時点でも攻め続け、2点目を失ったことを問題視する人もいるだろう。しかし、それでもポステコグルー監督の信念は揺るがない。

 「就任初日からこのサッカーをやっていくんだと選手たちに言ってきた。ここで変えてしまうと信用を失うし、自分は一度決めたことを大事にする」

 人によってサッカーに対する価値観は違う。リアリストに徹して地味だが堅い勝利を求める人。逆に美しいサッカーを楽しみたいと思う人。さまざまなスタイルがある中で、誰もが求める最高の形は一つだ。それは、理想と結果の一致。過去2シーズンは、その代表格ともいえる攻撃型を前面に押し出した川崎がJ1を連覇した。さて今年は、どこになるのだろうか。攻撃か、それとも守備か―。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。

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