【論説】遺伝子を改変するゲノム編集技術で開発した食品について、消費者庁は特定の遺伝子を壊しただけのものは表示を義務づけず任意とすることを決定した。既に厚生労働省も同様の食品の販売に関し、安全性審査を行わず届け出制にすると通知。早ければ年内にも市場に出回る見通しだ。

 しかし表示の義務がなければ、ゲノム食品かどうか判別できない。歴史が浅い技術で健康に直結する食の問題だけに、安全性に不安を抱く消費者への配慮を欠いていると言わざるを得ない。

 ■品種改良と区別不能■

 ゲノム食品は特定の遺伝子を切断してつくられるが、狙った遺伝子の一部を取り除くタイプと、別の遺伝子を挿入するタイプがある。現在開発が進む農水産物は前者のものが大半を占める。

 消費者庁は決定にあたり、遺伝子の改変がゲノム編集によるのか、従来の育種技術や突然変異で起きたのか、科学的に区別できないことを理由に挙げた。つまりこれまでの品種改良と基本的に変わらないとの判断から、生産者や販売者らに表示を義務づける必要はないと結論づけた。

 かつての遺伝子組み換え食品の大豆やトウモロコシは、その生物にない遺伝子を外部から挿入し害虫に強い、生産性が高いなどの特徴を持たせた。その分意図せぬ変異のリスクが残る。これに比べて遺伝子を切断する技術は、改変の精度が高く予想外の変化や異常は起こりにくいという。

 一方で、ゲノム食品でも別の遺伝子を加えるタイプは、遺伝子組み換えと同じく安全性審査が必要となる。

 ■消費者の不安消えず■

 東京大などが昨年実施した意識調査では、4割以上がゲノム食品を「食べたくない」などと回答。日本消費者連盟は食品の規制と表示の義務づけを求めて、関係省庁に意見書を提出し署名活動も行っている。消費者には心配や戸惑いが根強くある。

 県内では11月初め、ふくい・くらしの研究所が「食品表示と食の安全」講座を開き、定員を超える約60人が参加。講師から▽遺伝子組み換えとゲノム編集の違い▽ゲノム編集は品種改良とほぼ同じ▽その技術は遺伝性医療にも使われる―などの説明を受けた。

 最後にアンケートを取ったところ、医学への応用に期待を寄せる意見の一方「表示がないと選択できない」「将来的に大丈夫か不安」という声など賛否は半々だった。来年2月には同じ講座を鯖江市で開催する予定だ。

 ■自主的表示呼びかけ■

 消費者の疑問に対し、消費者庁は事業者に厚労省へ届け出た情報を包装や売り場などで自主的に表示・提供するよう働きかけるという。また流通実態や諸外国の状況を見て「必要があれば表示のあり方の見直しも検討する」と含みを持たせている。

 ゲノム編集食品について、米国は特に規制せず、欧州連合(EU)は遺伝子組み換え食品と同じく規制すべきだと判断。日本は政府が総合イノベーション戦略として重視している背景がある。このため今回の決定理由も消極的で不明瞭、運用方法もちぐはぐ感が否めない。

 国内では今後、収穫量が多いイネや血圧を下げる成分が多いトマト、アレルギー物質が少ない卵、体が大きく肉厚のマダイなどが本格的に流通するとみられる。

 その際、消費者がゲノム食品を自分の判断で選べるように、ルールの改善やデータの積極的な公表を求めたい。消費者の権利を優先するのが本筋である。

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