お年玉を使わずに貯金しておいたら大人に褒められる、という怪奇現象をふと思い出した。

 洋服に食器、おいしいお土産、漆椀、お箸、すっぽんドリンク。ハワイのコスメに神保町で見つけた古本、そして横浜中華街、台湾でのショッピングレポートまで。スタイリスト伊藤まさこの新刊は「お買い物」がテーマである。表紙の明るさと、ショッピングという心踊るフレーズで、さぞかしかわいい本に仕上がっているとお思いだろうか。違う、そうじゃない(C)マーチン。そんな生易しいものでは、断じて、ない。ちょっとこれは常軌を逸しちゃってんじゃないの?と言いたくなるほどに、伊藤の買い物は、とにかくすごい。

 だってさ聞いて、まず家にあるというバターナイフが13本という時点で嫌な予感はしませんか。さらに台湾で買ってきた枕が作れそうなほど大量の乾燥きくらげ。えーとつまり、水に戻したらセミダブルのベッドぐらいになるのでは。業者か。そして極め付けは、旅先でなぜかよく購入するというスーツケース。伊藤家は、まさこが旅に出れば出るほどスーツケースが増えていくそうです。やば。

 とはいえ、これだけ買うのには何か理由があるのかもしれないとも思う。伊藤家は13人家族かもしれないし、きくらげを本当に枕にしているのかもしれない。私たちが知らないだけで、実はきくらげは悪夢を吸い取ってくれる効果があり、目覚めると頭の下のきくらげが戻っているのではないか。えっ嫌だ。それにスーツケースだって、中に恋人との密会を企てる売れっ子アイドルは入っていないと誰に言えようか。つまりあれだ、なんらかの事情があり、結果的に買い物の鬼のように見えているだけではないか。じゃなきゃ信じられない、だって旅行の度にスーツケースって怖すぎる。

 という予想は、いとも簡単に裏切られました。全部、ご自分の意思で、欲しいから買われているそうです。「全部買います。」「いいや、買っちゃえ。かわいいし。」「大きさ、重さ、気にしない。」「イチかバチかです。」「今買わないでどうすんの?」……。そう、この人はただ、目の前ものに惹かれ、ただそれを手に入れたいと思い、買い続けているだけだ。ただ、人より決断が早く、手に入れることへの情熱が強く、掴み取る力が強い。

 まるで野生動物のドキュメンタリーを観たような読後感。買い物っていうとささやかなことのようだが、伊藤まさこという人は買い物に限らず、人生のあらゆる局面を直感で取捨選択し、その結果を引き受けてきたのだろう。私は、誰の人生でもない私の人生を好きなもので満たして、そのためにお金を使う。私を生きて何が悪い。お年玉を貯金しようが使おうが、私のことは私が決める。そんな彼女の自由な精神と覚悟に触れられる一冊だ。

 ちなみにまさこさんのお父様、新婚時代にワニ2匹、お土産に買って帰っていらしたそうです。もち、生きてるやつ。……親譲りの無鉄砲!

(集英社 1600円+税)=アリー・マントワネット

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