【越山若水】歴史研究家、松原信之さん(福井市)の祖母は、旧福井藩士西尾家の娘だった。大坂夏の陣で、真田幸村を討ち取ったことで知られる西尾家だ。祖母の影響もあったのか、若い頃から歴史に関心を寄せ、亡くなるまで越前朝倉氏をはじめ数多くの研究業績を残した▼1955(昭和30)年頃、高志高教員としてクラブ活動の生徒とともに同市の一乗谷で調査を始めた。自転車をこいで訪れた一乗谷に人の姿は見えず、遺跡の庭石がわずかに土中から顔を出すぐらいだった▼70年7月、現地の知人から1本の電話が入った。土地改良事業でブルドーザーが陶器片や石仏など大量の遺物を掘り返したという。慌てて駆けつけ驚いた。と同時に「このままでは遺跡が破壊される」と、緊急調査の必要性を痛感した▼だが、一教師の身ではどうにもならない。大学やマスコミ関係者に働き掛けて、県幹部に遺跡の重要性を説いた。その結果、行政機関と地元の理解も得て、遺跡の保存が実現。「一乗谷朝倉氏遺跡」として国の特別史跡に指定された▼中世遺跡の調査には文献が欠かせず、松原さんの研究は本格化。朝倉敏景の名は孝景が正しいと発表し、教科書の表記が改められた。穏やかな口調で熱く歴史を語り、貴重な研究書を残した。「若い研究者に引き継いでもらいたいとの一念で執筆しました」と語っていた言葉が忘れられない。

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