【越山若水】文章を書く仕事柄、言葉の使い方には注意をしているつもりだ。だから文化庁が毎年行う「国語に関する世論調査」を見るたび、語意や表記の誤用を犯していないかドキドキする▼2003年に「姑息(こそく)な」の意味を尋ねたとき、「一時しのぎ」と正しく答えたのは13%。70%が「ひきょうな」と勘違いしていた。06年に「混乱したさま」を表す慣用句を「上を下への大騒ぎ」と正解した人は21%、「上や下への大騒ぎ」と間違えた人が59%もいた▼ところで日本中がいま「上を下への大騒ぎ」になっている。20年東京五輪のマラソン、競歩の開催地を札幌市に移転する案である。国際オリンピック委員会(IOC)が猛暑対策を理由に唐突に変更を求めてきた。準備を進めてきた東京都にすれば、寝耳に水である▼確かに中東ドーハの世界選手権女子マラソンでは、深夜出走にもかかわらず高温多湿のため4割が棄権した。しかしIOCはその後も、遮熱性舗装やミストシャワーなど東京の対応を評価していた。「アスリート・ファースト」は当然ながら、決定の経緯は不透明だ▼昨年の国語調査は「憮然(ぶぜん)とする」が対象で、正解の「失望してぼんやりする」は28%、誤解の「腹を立てている」は57%に達した。IOCと東京都などの協議が始まった。ただ移転の結論がどうであれ、正誤に関係なく「憮然とする」人は多いだろう。

関連記事