【越山若水】1968(昭和43)年、一本の日本映画がオール福井ロケで製作され、71年に公開された。タイトルは「朝霧」。監督は故吉田憲二さん、脚本を堀江喜一郎さん(87)らが手がけ、主演は八千草薫さん、和泉雅子さんだった▼吉田監督と堀江さんは福井市出身で、堀江さんは宝永小、福井中学(現藤島高)で吉田さんの1年後輩。当時は、日活撮影所の契約脚本家だった。吉田さんから「福井を舞台にした作品を作りたい」と相談され戦争未亡人と一人娘の心の交流や、娘の自立を軸にストーリーを考えた▼劇団民藝の故宇野重吉さん、奈良岡朋子さんも出演。東尋坊など真冬の日本海の厳しい自然や旧福井駅、新栄商店街なども登場する。「福井国体」が開かれた年に製作され街の活気まで写し込まれた。八千草さんは、娘との幸せな生活を最優先に考える未亡人役。仕事に打ち込みながらも病に倒れる姿を手堅く演じた▼堀江さんは本番前、八千草さんから台本にある気管支拡張症のせきについて尋ねられた。八千草さんが5、6通りのせきをしたので、経験のあった堀江さんは「今の感じです」と伝えた。「見かけはかれんな日本女性に見えるけど、しんの強い、まじめな方でした」と振り返る▼八千草さんは膵臓(すいぞう)がんのため88歳で亡くなった。「朝霧」で見せた演技のように、最期まで美しく、穏やかで温かな印象を残して。

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