【越山若水】「稜線(りょうせん)のへの字への字に霧が湧く 岩佐耶沙(やさ)」。朝夕の冷え込みが身にしみ、通勤の道すがら目にしたのは、遠くの山並みに立ちこめる白い霧。秋の深まりを思い知るときである▼地表近くの空気が冷やされ水滴が漂う現象は同じでも、日本人は古くから「春は霞(かすみ)、秋は霧」と季節によって使い分けてきた。例えば、七十二候の「霞始めてたなびく」は旧暦の2月下旬のこと。ようやく春めいて山裾がぼんやり見える様子を「霞の衣」と形容した▼うっすらと穏やかな印象の霞に比べ、霧の方は色濃く景色が見えにくい感じ。俳聖芭蕉が詠んだ一句。「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞ面白き」。箱根越えの日、富士山は深い霧に包まれ隠れている。しかしその雄姿を思い描く旅も悪くない…。逆転の発想に驚くばかりだ▼さて気象ことわざに「朝霧は晴れ」とある。高気圧に覆われよく晴れた日の翌朝は、放射冷却現象で気温が下がり水蒸気が凝結し霧が発生。日が昇って霧が消えると青空が戻ってくる。特に盆地では周囲の山からも冷気が降り、濃い霧にすっぽり包まれることがある▼ここで思い出すのが、朝霧にそびえる「越前大野城」である。出現時期は10月から4月末で、11月が最適らしい。放射冷却が起きやすい、風が弱い―といった条件が重なれば“天空の城”がお目見えする。ふるさと福井を幻想的に彩る秋の霧である。

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