【越山若水】赤ちゃんの面倒を見るとき、ひと昔前は「おんぶ」がほとんどだった。ところが最近その姿を見かける機会はめったになく、お母さんもお父さんもほぼ全員が「抱っこ」をしている▼いろいろ理由はあるらしいが、両手の自由が利くおんぶなら、家事など同時作業がやりやすい。一方で抱っこだと、赤ちゃんの表情が見やすく安心できる。どうやら生活第一か、あるいは子育て優先かの違いが影響している。ただし家の中と外で使い分ける人も多い▼ここでどちらが理想的かを議論するつもりはない。折しも元大阪大総長で哲学者の鷲田清一さんが「『自由』のすきま」(KADOKAWA)でこんなことを書いていたからだ。おんぶであれ、抱っこであれ、責任や義務を「負う」という意味では共通点がある―と▼「負う」とは背中に人や物を載せ、その重量を支える具体的な行為を指していた。そこから二次的に責任や義務、債務など社会的な約束を背負わされるイメージが派生したと考察している。確かにおんぶの場合、赤ちゃんの保護や安心を担保しているのは間違いない▼では抱っこはどうか。お互いに目と目を合わせ、親はわが子の気持ちを理解し支えようとする。どちらにせよ、子どもの呼びかけに応じる姿勢が前提になる。虐待や育児放棄のニュースを聞くにつれ、か弱き者への慈しみを忘れないでほしいと思う。

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