【論説】物資が不足していた戦後、貴重な新聞紙を使った授業が行われた。実践したのはNIE(教育に新聞を)の先達とされる大村はまさん(1906~2005年)。社会が変化する中、言葉こそが生きる力と信じ、子どもたちにその大切さを説き、生涯にわたって言語教育に力を注いだ。

 情報量が増え、情報の質が変化し、社会は一層複雑化している。多様な視点を提供する新聞へのニーズはますます高まっている。新聞週間(15~21日)に際し、新聞を活用する意義を改めて考えたい。

 ■教室に落ち着き■

 栃木県で開かれた今年のNIE全国大会の基調講演で、「大村はま記念国語教育の会」事務局長の苅谷夏子さんが紹介した。

 大村さんは1947年、新制中学校がスタートした時に中学教師となった。戦前まではエリート女子教育を担っていた高等女学校の教員だったが、自ら手を挙げ、当時は海のものとも山のものとも分からない場所に身を置いた。

 一面焼け野原だった東京下町の学校。100人の生徒がいる教室を任された。生徒の落ち着きはなく、教室は常に蜂の巣をつついたよう。全くのお手上げ状態で民主主義を担うはずの新しい学校に志願したことを後悔したという。

 新聞を使って100人の生徒一人一人に教材を作ったのが転機だった。机のない教室で、ある生徒は戦争の爆撃でひしゃげた窓枠に教材を押し当てながら余白に字を書いた。生徒たちは次第に思い思いの姿勢で勉強するようになる。大村さんの努力はもちろん、身近なことが書かれた新聞教材が生徒を引きつけたのだろう。

 ■適切な情報活用を■

 2020年度実施される小学校の新学習指導要領では、各種の統計資料や新聞などの教材・教具の適切な活用を求めている。膨大な量の情報が簡単に入手できる現代社会では必要な情報を取り出したり、分かりやすく整理したりする力を育む教育が不可欠だ。

 「社会に開かれた教育」も大切なキーワード。今年4月の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の小学生国語の問題では、公衆電話の減少など身の回りの状況をまとめた文書を読み取らせている。算数でも単に計算させるのではなく、市の人口と水の使用量に関するグラフを使って考えさせるなど社会生活と関連させている。学ぶ必要性を社会の中で意識づける出題といえよう。

 ■社会への理解必要■

 もちろん、新聞を教材化するために教諭自身も社会の出来事や問題を深く理解する必要がある。大村さんと親交のあった福井大教育学部の松友一雄教授は「社会でどんな問題が起き、どこに日本が向かおうとしているのかに目を開いてほしい」と求める。

 戦後、生徒を一人前の言語生活者に育てたいとの熱意と愛情を持ち指導に当たった大村さん。「新編教えるということ」(ちくま学芸文庫)には「親も離れ、先生もいなくなった時、子どもは一人でこの世の中を生きぬいていかなければなりません。その時、力がなかったら、なんとみじめでしょうか」とつづった。

 その教材の一つが新聞だったことに松友教授は「新聞を読んで社会を知る。社会について考える。そして自分を社会の中に位置づける―ということを大事にしていた」と振り返る。県内ではさまざまな教科・領域で教員向けのNIEの研修会が活発に開かれている。新聞に親しみ、活用することで子どもの「生きる力」を育みたい。

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