【論説】東京目黒区で昨年3月、当時5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんを虐待死させたとして保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大被告の裁判員裁判で、東京地裁は「苛烈な食事制限と常習的な暴行を主導した」などとして懲役13年の判決を言い渡した。検察側は過酷な虐待や他の罪でも起訴されていることを理由に、同種事件の判決の量刑よりも重い懲役18年を求刑していた。

 裁判では一審判決で懲役8年の判決を受け控訴している元妻優里被告が「おなかをサッカーボールのように思い切り蹴ったり、勉強している時に頭を厚紙でたたいたりしているのを見た」と雄大被告の様子を生々しく証言した。

 結愛ちゃんの様子がおかしいことに気付きながら、病院に連れて行かなかったり、食事をまともに与えず1カ月余りの間に体重の約25%を失わせたりしていたことも明らかになった。こうした証言や事実に、裁判員からは「許せないという感情的な部分と、過去の量刑傾向とのバランスを取るのが難しかった」といった声が出たのも当然だろう。

 判決では「しつけから懸け離れ、自らの感情に任せた理不尽なものだった」「虐待発覚を恐れる身勝手極まりない保身から医療措置を受けさせず、甚だ悪質」と批判し、従来の量刑の中で「最も重い部類」の判決を下した。裁判員の熟議の結果だけに、識者からも、虐待事件防止という社会的要請を反映し「妥当」とする声が上がっている。

 事件をきっかけに、国は虐待通告から原則48時間以内に子どもの安全確認できない場合、児童相談所が立ち入り調査を行うルールを決定した。さらには、児童虐待防止法などを改正し、体罰禁止を明文化した。親権者に必要な範囲で子どもを戒めることを認める民法の「懲戒権」について、削除する方向で検討するとしている。

 しかし、その後も虐待事件は後を絶たない。千葉県野田市で今年1月に小学4年の女児が死亡。札幌市で6月に2歳女児が衰弱死している。背景に潜む配偶者へのDV(ドメスティックバイオレンス)への児相の不十分な対応や、児相や警察など関係機関による情報共有・連携不足、兆候の見逃しなど問題点が浮き彫りになっている。

 児相の人員不足の解消は急務だろう。全国の児相が扱う虐待の通告や相談は年間16万件近くに上っている。原則48時間以内の安全確認についても昨年7月以降、約8割の自治体が対応できていないという。虐待の兆候を見逃さないために市町と連携して家庭訪問の回数を増やすなど、幼い命を守ることに知恵を絞り、実効性のある対策を講じる必要がある。

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