日本に敗れて予選リーグ敗退が決まり、肩を落とすスコットランド代表=10月13日、日産スタジアム

 ラグビーワールドカップ(W杯)の日本との試合前、スコットランドは吠えていた。

 最初は日程についての不満。「開催国が著しく優位なスケジュールになっている」

 ごもっとも。しかし4年前のW杯では、試合日程に恵まれていたこともお忘れなく。

 そして、台風19号の接近による影響が不可避のものとなり、試合が中止される恐れが出てきた時には、こんなことも言っていた。

 「もしも、日本戦がキャンセルされた場合、法的措置も検討する」

 今振り返ってみても、この発言は一線を超えたものだった。

 試合開始前の記者室で、ロンドンに本拠を置く記者が気まずそうに話してくれた。

 「スコットランド人は、台風がどんなものなのか知らなかったんだよ。ほとんど経験がないから。PR的には致命的な失敗だった」

 スコットランド協会の関係者は、試合をする機会を奪われ、日本が準々決勝に進出するという「陰謀説」を信じていた節がある。

 ただし、こうした舌戦はヨーロッパのラグビーでは試合前の恒例行事のようなものだ。

 言葉で相手をけん制し、駆け引きを試みる。実力を蓄えた日本は、権謀術数の世界に巻き込まれた。

 しかし、試合が始まってみれば、スコットランドは実に堂々としていた。特に試合開始から20分間の集中力は目覚ましいものがあった。

 実は、スコットランドは今年に入ってから試合の入りに問題を抱えていた。

 テストマッチ12試合での総失点232のうち、およそ3分の2が前半20分までのものだった。

 そのデータを意識したのだろう、15人全員の意思が統一され、ディフェンスが崩れない。チャンスをつかむと先制トライを奪った。

 しかし、そこからは日本のアタックに翻弄され、後半に入って7対28にまでリードを広げられた。

 しかし、そこからスコットランドの強さが発揮される。ボールの保持、陣地でも圧倒、21対28にまで迫る。

 なにより感動的だったのは、スコットランドの「折れない心」である。

 21点差がつき、誰か一人でも諦めていたら、試合内容は崩れていただろう。

 スコットランド側から見れば、8点差以上で日本を破らなければ準々決勝進出はない。

 逆転が絶望的になり、ノーサイドを前に日本がボールを取り返すと、スコットランドのフォワードの面々は、何度も何度もラックに体をぶつけてきた。

 感情のやり場がないだけに、それは切ない光景だった。

 試合終了を知らせる銅鑼の音が鳴り、日本がボールをタッチに蹴り出すと、スコットランドの選手たちはグラウンドに崩れ落ちた。

 

 試合終了後の記者会見。スコットランドのタウンゼンド監督は冷静に試合を振り返った。

 「前半にトライを与えすぎてしまった。日本は…素晴らしかった」

 試合が終われば、舌戦も終わる。

 スコットランドは伝統国の矜持を示し、W杯を去った。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

関連記事