【論説】今年も北朝鮮の漁船による日本海での違法操業が横行している。今月7日には能登半島沖約350キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内にある好漁場「大和堆(やまとたい)」で北朝鮮漁船と水産庁の漁業取締船が衝突する事故があった。

 県内をはじめ日本海沿岸の漁業者らは安全面や漁獲量への影響など不安を募らせている。政府は拉致問題などへの配慮からか、弱腰批判も招いている。日本海の漁業を守るために一層の監視態勢強化が欠かせない。

 ■「甘い対応」■

 水産庁などは「向こうの船が急旋回したためにぶつかった」と衝突の状況を説明しているが、故意なのか、事故なのか真相は不明だ。北朝鮮の漁船は沈没。投げ出された乗組員60人は救助されたが、事情聴取が行われないまま、他の北朝鮮船に乗り移り、去ったという。

 政府は「違法操業が確認されなかったため」としているが、実際に放水は行っており、国会では与党議員らから「甘い対応」との批判が上がっている。ただ、拿捕(だほ)した場合はいったん陸上に移送する必要があり、監視態勢がおろそかになる側面があった。

 さらに、漁船が武装している可能性もある。今年8月には北朝鮮とみられる船の乗組員が小銃を向けて威嚇する場面もあったとされる。海上保安庁の巡視船員は防弾チョッキなどを着用している。取り締まる側も命懸けの状況にあることは理解したい。

 ■漁獲量激減■

 身の危険は日本の漁業者らも同様だ。大和堆で甘エビ漁などを行っている県内の漁業者は北朝鮮の船を確認した場合、避けて別の場所で仲間の漁船同士がかたまって操業しているという。他県の漁業者は北朝鮮の漁船が流した網が自船のスクリューに絡まったり、仕掛けた漁具を持ち去られたりする被害に遭っている。

 漁獲量への影響も懸念されている。マグロやサンマの不漁が伝えられる中、イカも全国的に激減している。温暖化による海水温の上昇で、産卵場所など生態系が変化したとの指摘がある一方、北朝鮮など外国漁船による乱獲も見逃せない要素だろう。

 北朝鮮の密漁が増えている背景には、軍が自国近海の漁業権を中国漁船に売り渡し、漁ができなくなっている実態がある。ロシアが9月以降、自国EEZ内で北朝鮮船を拿捕し、拘束者が計800人を超えるなど取り締まり強化に乗り出したため、大挙して大和堆周辺に集まる可能性も指摘されている。

 ■密漁で外貨■

 北朝鮮が国を挙げて水産業を奨励していることも密漁に拍車を掛けている。2017年の国連の経済制裁で水産物が禁輸となり、これに呼応するように日本海の密漁船が急増している。中国などに密輸して外貨獲得につなげているとされる。

 北朝鮮が大和堆を自国のEEZと主張している以上、密漁船の数は減ることはないだろう。今月2日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射、島根県沖の日本のEEZ内に落下したとみられる。このまま中距離弾道ミサイルの発射実験が繰り返されるようでは、日本海はますます危険な海になりかねない。

 政府は近く衝突事故の現場を撮影した映像を公表することを明らかにした。自民党の突き上げに応じた格好だが、日朝関係に影響が出る恐れもあり、しぶしぶの公表ではないか。公表を機に、監視態勢の強化など日本海の漁業をどう守っていくか、具体策を打ち出すべきだ。

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