【論説】今年のノーベル化学賞に、リチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰さんら3人に贈られることが決まった。電話やパソコンをコンセントから解放し、モバイル情報機器の時代を切り開いた技術であり、地球温暖化対策の切り札としても脚光を浴びている。

 吉野さんは京都大大学院修士課程を終えた後、旭化成に入社し研究を続けてきた。企業人としては2002年に島津製作所シニアフェローの田中耕一さんが同賞に輝いている。日本企業の高い研究力、底力を改めて示したといえよう。

 リチウムイオン電池は、スマートフォンなど持ち運びできる電化製品に加え、今後、電気自動車(EV)や家庭用の蓄電池などの分野での活用が期待されている。太陽光や風力などの再生可能エネルギーには発電量の不安定さがあるが、電気を電池にためて使う方法が浸透すれば、石炭や石油などの化石燃料による発電からの転換が加速するはずだ。温室効果ガス排出の削減という点からも評価されたのだろう。

 繰り返し充電して使えるリチウムイオン電池は吉野さんらの研究によって1990年代初めに実用化された。共同受賞するジョン・グッドイナフ米テキサス大教授らによって79年に「コバルト酸リチウム」がプラスの電極として使えることが分かった。一方、マイナスの電極となる物質探しは難航。吉野さんは試行錯誤の末、炭素材料に行き着き、85年に確立させた。炭素材料は旭化成の別の部門が手掛けており、ここでも日本企業の強みが生きた形だ。

 実用化されたリチウムイオン電池は従来の電池の性能をはるかに上回り、携帯型機器に適した小型で軽量の電源の完成により、モバイル社会、IT化が急速に進んだ。スウェーデンの王立科学アカデミーは受賞理由に脱化石燃料への寄与なども含め「私たちの生活に革命をもたらし、人類に偉大な貢献をした」とする。

 吉野さんの研究はバブル経済期で、企業に余裕があったこともあるだろう。2014年にノーベル物理学賞を受けた3人の青色発光ダイオード(LED)の研究もそのころのものだ。だが、バブル崩壊後は「選択と集中」に重きが置かれ、短期の成果を求める中で、研究態勢の縮小が進む分野も少なくないという。

 大学もしかり。多くの大学が研究力を維持できるか崖っぷちにあるとされる。吉野さんも受賞決定を受け、大学の基礎研究力の低下に懸念を表明した。安倍政権は「世界で最もイノベーション(技術革新)に適した国」を目標に掲げる。ならば次代を担う若手研究者の育成に向けさまざまな策を講じる必要がある。

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