トークライブで観客を引き込む佐々木さん=9月11日、福井県福井市の寄合カフェ京町Y・Y

 喉にがんを患っている福井県福井市の俳優で演出家の佐々木雪雄さん(66)が、抗がん剤治療を受けながらパフォーマンスに情熱を注いでいる。9月上旬のトークライブを最後に声帯を全摘出することを考えたが、演劇への思いを捨て切れず、声を温存する治療法に切り替えた。「どんどん欲が出てきちゃってね。あともう1、2本はやり残した芝居をしたい」と次回を見据え意欲を見せている。

 9月11日夜、福井市のカフェで開かれたトークライブ。佐々木さんは芥川龍之介ら3人の作品を朗読した。時折休憩を挟みながら、情感たっぷりの語り口とテンポ良いトークで詰め掛けた観客を引き込んだ。「せりふは間合いが大事」「文化や芸術、歌、演劇などは人の心や精神を成長させる」などと自らの演劇論も熱く語った。

 23歳の時、知人の台本の読み合わせに付き合ったことがきっかけで役者の道に。舞台に立つと「観客の息遣いまで聞こえるほど静かで、自分が発する一言一言を聞いてくれた。何とも言えない気持ちになった」。演劇のとりこになった。

 1983年に県芸術祭賞を受賞、2008年には宇野重吉演劇祭を立ち上げるなど、県内演劇界で活躍してきた。10年ほど前からは「顔が似ていると言われる」福井ゆかりの歌人、橘曙覧に着目。曙覧にまつわる台本を仕立て、小学校などで一人芝居を披露している。

 体調に異変を感じたのは今年3月。声を出しづらくなり病院で診察を受けた。3カ月後に喉頭がんと判明、声帯の全摘出が必要と言われた。「40年以上、演劇を続けるために、いろいろなものを捨ててきた。声が出ないなら生きている意味がない」。役者生命の危機に直面し落ち込んだ。

 いったんは10月の手術を決断。9月11日のライブは、「声を失う前にステージに立ちたい」という佐々木さんの思いを酌んで、カフェの常連たちが企画したものだった。

 このライブを最後のステージと位置づけ全身全霊で演じた。だが、ライブを終えてなお佐々木さんの中に「まだまだやり残したことがある」という気持ちが消えなかった。

 数日悩み、医師とも相談。8月中旬の抗がん剤治療後の経過が予想より良好なこともあって、手術せず抗がん剤治療を続けることに。声帯を残しパフォーマンスを続けることに決めた。

 「自分の人生観に従って、がんとの向き合い方を考えたい」。佐々木さんは演劇と共にあった人生を振り返り、将来について生き生きとした表情で話した。

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