【論説】11月に憲政史上最長となる政権トップの所信表明演説にしては物足りない中身ではなかったか。「新しい令和の時代にふさわしい日本をつくり上げる」などと美辞麗句を並べ立てるだけで、さまざまな課題に対する具体策には踏み込まず、解決に向けた道筋を示したとは言い難い。

 冒頭「日本国憲法の下」で始まり、いきなり憲法改正に言及するのかと思いきや、「第1回の国会」以降の先人の歩みに「敬意を表します」と述べただけ。結局、改憲に触れたのは末尾で「理想を議論すべき場こそ、憲法審査会ではないでしょうか」と国会論議を呼び掛けるにとどめた。

 安倍晋三首相は宿願である改憲を長期政権のレガシー(政治的遺産)にしたいとの意欲を持っているのは周知の事実であり、演説で大上段に振りかざす可能性があっただけに、野党議員らも拍子抜けしたのではないか。しかも「憲法調査会」と言い間違いをしたのはいただけない。

 所信表明演説は、1月の通常国会冒頭に内政、外交全般にわたり見解を示す「施政方針演説」とは異なり、当面の政治課題について基本姿勢を明らかにするもので時間も半分程度にとどまる。とはいえ、課題など耳の痛い話も受け止め、国民に対して真摯(しんし)に説明する必要があるはずだ。

 特に、スタートしたばかりの消費税増税は、米中貿易摩擦などと相まって、さらに景気を冷え込ませるとの懸念は強い。「下振れリスクが顕在化する場合、ちゅうちょすることなく、機動的かつ万全の対策を講じる」との説明だけでは、国民不安は払拭(ふっしょく)できない。

 「1億総活躍社会」「地方創生」「国土強靱(きょうじん)化」「経済最優先」といったフレーズはこれまでも何度となく触れられており、内容にも既視感が否めない。「全世代型社会保障」に至っては、金融審議会の老後資金不足報告書を意識したのか、高齢者の就業機会の拡大など「老後の安心」確保を強調。負担増など痛みには一切触れなかった。

 とりわけ、既視感が強いのは外交に関してだ。特に北朝鮮やロシアについては行き詰まり状態にあり、昨年の演説の焼き直しとも思える内容だろう。関係悪化が深刻化している韓国に関しては「重要な隣国」としつつ「国と国の約束を順守することを求めたい」と素っ気なかった。

 今年4月以降、野党の再三の要求にもかかわらず、安倍政権と与党は衆参両院の予算委員会開催を拒んできた。この間、多岐にわたり議論すべき課題が噴出している。関西電力幹部の金品受領やかんぽ生命保険の不正など看過できない問題もある。言論の府は使命をきっちり果たすべきだ。

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