金属接合の特許技術をもとに創業した武生特殊鋼材。主力製品「クラッドメタル」は刃物にとどまらず、様々な活用が期待される。その可能性を世界へ発信するために、勘と経験の経営を進化させる組織づくりに取り組む。

(聞き手/吉田真士・福井新聞社代表取締役社長)

 

越前打刃物を支えるクラッドメタル。 

吉田 主力製品「クラッドメタル」とは、どんな素材ですか?

河野 異なる種類の金属を接合させ、単一の素材にはない特性を持たせた複合材料です。例えば、硬いが錆びやすい「鋼」と、錆に強い「ステンレス」をサンドイッチのように接合させ、「硬くて錆びにくく、耐衝撃性のある」素材をつくることができます。
 
吉田 そのクラッドメタルが会社の設立に関わるそうですね。

河野 当社は私で4代目です。大阪にいた祖父が、熱と圧力を利用した「熱間圧延接合法」を考案し、クラッドメタルの製造方法の特許を取得。その製造に使用する圧延機が、越前打刃物の産地であるこの地にあったことが縁で移住し、打刃物への材料供給メーカーとして始まったのです。

吉田 それ以来、越前打刃物を支えてきた。

河野 越前では、職人が自ら材料を鍛接し、労力がかかり大量生産が難しかった。他の接合技術と比べ熱間圧延接合法は品質のムラが少なく、クラッドメタル製造により材料確保が安定したと考えています。創業数年後から関市(岐阜)や燕市、三条市(新潟)などの産地にも供給するようになりました。

吉田 まさに国内の刃物業界を広く支えていますね。

河野 日本の刃物、特に越前打刃物は、鋭い切れ味やその持続性などが世界のプロから高く評価されています。そこに我々の製品が使われることは誇りに思いますが、材料供給以外の形でも産地を支えたいと考えています。地元業者と立ち上げた刃物ブランド「iizA(イイザ)」もその一環。それにより素材としてのクラッドメタルの優秀さを周知するだけでなく、越前打刃物が持つ高い技術を広く発信していきたいのです。

 

クラッドメタルの可能性を、世界へ。 

吉田 県内大手メーカーと医療用チタン材を開発しましたね。

河野 当社にはオリジナル刃物鋼を開発してきたノウハウもあります。また、多様な性質を付加できるクラッドメタルの技術には、幅広い製品に応用できる高いポテンシャルがあります。今回のチタン材は、医療機器の小型化に合わせ耐久性と生体安全性を高めました。

吉田 今後も異分野で用いられる新素材を開発するのですか。

河野 素材開発は一朝一夕にはいかないので、ある程度のコストと期間を見込む覚悟です。また、独自にクラッドメタルを用いた新たな商品開発にも取り組んでいます。特に福井県内の企業と協力したいと考えています。

吉田 素材の可能性を周知するため、課題はやはり営業力ですか。

河野 特に海外への営業力です。今も欧州やアジア、米国などと取引をしていますが、拡大の余地は十分にあると考えます。海外での商談などを見据え、講師から英語でのプレゼン法を学ぶなど、世界へアピールする力を育てています。

 

「刃物職人の声に応えるような形で、試行錯誤を重ね新たな素材をつくってきました。あくまで刃物を基本に、これからもクラッドメタルの可能性を追求します」と語る河野社長。 組織を整備して、「勘と経験」を進化。

 

組織を整備して、「勘と経験」を進化。 

吉田 5年前の就任の際、「10年ビジョン」を掲げました。

河野 「世界の匠たちのプロの技を支え、守り育てるトップの技術」という点を打ち出しました。世界のプロを支えつつ、社会から評価される「アドマイアードカンパニー(称賛される会社)」を目指すという思いです。

吉田 その達成に向け、重点的に取り組んでいることは。

河野 従来の「勘と経験」に頼る経営を進化させたいと考え、まずは生産管理の規格化に取り組んでいます。データを収集し、分析して生産の効率化や不良率の低減、納期短縮につなげます。

吉田 社員の多能工化も進めているとか。

河野 社員のスキルマップを作製して、個々の能力やスキルをある程度「見える化」しました。これを基に効果的に配置転換して育成し、「この人じゃないと作れない」というのではなく、一定の品質をさらに安定して提供できる体制を築きます。

吉田 意識改革も大事になってきますね。

河野 特に若手には積極性を持ってもらいたい。会社の持続的発展には新しいアイデアや視野が必要で、これまでのようなトップダウンの手法では限界がある。昨年から社員との一対一面談を続け、日ごろの悩みや目標を聞きながら、モチベーションが高まるよう働きかけています。

吉田 会社の目指す未来は、まさに社員にかかっている。

河野 少しずつですが、さらに風通しのよい組織を目指して進んでいます。当社は若い社員に恵まれ、年齢構成も偏りなく丁度よい。責任ある仕事をして経験を蓄積できる機会を、彼らにどんどん与えていきたい。刃物を基盤にしながらさらに成果を広げるのが、われわれの世代の役目だと強く思っています。

 

 

 

 

武生特殊鋼材 株式会社

本社/越前市四郎丸町21-2-1
TEL.0778-24-3666
URL/www.e-tokko.com
創業/昭和29(1954)年10月
事業内容/オリジナル刃物鋼およびクラッドメタル(異種金属接合材)の製造販売、金属受託加工、クラッドアート

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