【越山若水】井原西鶴の「日本永代蔵」は副題に「大福新長者教」とあるように、知恵と才覚で立身出世した町人を描いた小説集である。言い換えれば、江戸元禄時代のビジネス啓発本でもある▼中に初老の男が貧困から逃れたいと金持ちに相談する話がある。「俗に四百四病と言って多くの病気があるが、世間には名医がいて必ず治すことができる。では貧乏の苦しみを治す方法はないだろうか」。すると金持ちは、長者丸(がん)と呼ぶ妙薬の処方を伝授すると言う▼「早起き五両、家業に励むこと二十両、夜なべ八両、倹約十両、健康が七両…。この五十両を砕いて粉にして朝夕飲めば万端間違いない」。ただしやってはならない毒断ちがあると付け加える。美食や絹の着物、茶の湯、花見、連歌、夜遊び、賭け事は毒と思え―と▼消費税が10%に引き上げられた。ガソリンの価格は世界の石油情勢と関係なく1リットル3円ほどアップ。コンビニで受け取るレシートも一新されたが、出費は少額でも確実に増えている。庶民としては、永代蔵の男のように、金欠病を予防する妙薬がないかと気にかかる▼しかし長者丸のような都合のいい話はあるはずもない。要は、仕事にいそしみ倹約を心がける。遊びやぜいたくは控えめにする。庶民のやりくり算段を思えば、政府は税の使い道に細心の注意を払う責任がある。無駄遣いへの視線は一層厳しくなる。

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