【越山若水】日本美術院理事長や東京芸大学長を務めた日本画家・平山郁夫氏の指導法は独特だった。院展の研究会で会員の作品を見て「うん、やんなさい」と言えば合格、「うーん、やんなさい」と言えばダメの意味。どこがダメかは、自分で判断するしかなかった▼そんなエピソードを、福井県立美術館で回顧展を開いている同美術院同人で同大教授の手塚雄二さん(66)が、記念鼎談(ていだん)で披露した。展覧会は院展初出品から40年になる画家人生の集大成。日本の伝統美を踏まえつつ現代的な感性で描いた代表作に加え、初公開のスケッチも並ぶ▼「光の画家」といわれるように山中の坂道の樹間から金色の光が降り注いだり、トンボや花が自ら淡い光を発したり、独自の鮮烈な表現が印象的だ。ダイナミックな黒部の滝や風雷屏風(びょうぶ)から、虫食いの枯れ葉や散りかけの花まで、大胆かつ繊細な美意識に引き込まれる▼鼎談で好きな日本画を問われた手塚さんは、ベスト5の1点に菱田春草の「黒き猫」(1910年、重要文化財)を挙げた。「亡くなる直前こんないい絵を描くなんて」と絶賛。「生きている以上、これを抜ける作品が目標」と口にする▼来春退官し、絵に専念する。「自分がいい仕事をすれば日本画の展望は開ける」ときっぱり。新しい日本画を目指した岡倉天心、菱田春草、平山郁夫氏らの遺伝子が脈々と受け継がれている。

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