【論説】安倍晋三首相は「ウィンウィン」と称し、相互利益が図られたと強調したが、中身をみると、日本が譲歩したとの印象は拭えない。

 トランプ米大統領と最終合意に至った日米貿易協定は、米国産の牛肉や豚肉、小麦などの農産物に関して関税引き下げや撤廃に応じる一方、日本の自動車と自動車部品の2・5%の関税は撤廃されなかった。

 日本が2国間交渉に踏み切ったのは、日本車に対する追加関税や数量規制を回避するためで、目的は果たせたようだが、担当閣僚の口約束レベルだという。トランプ氏が再び言い出す可能性も否定できない。

 特に、米国からの安価な食肉の輸入にさらされる畜産業者は不安を募らせているはずだ。養豚農家は豚コレラの危機にあり、一大産地の関東にまで迫ってきている。さらに、ワクチンのないアフリカ豚コレラが韓国で発生するなど、じわじわと広がってきている。加えて、米国産豚肉が出回れば、廃業を決断する農家も出てくるだろう。

 来年の米大統領選へ花を持たせたとされるが、環太平洋連携協定(TPP)から離脱した米国をTPP基準と同等としたこと自体が他の加盟国への信義にも関わる話だ。ならばTPPでほぼ合意していた自動車や部品への関税撤廃を強く求めるべきだった。

 ただ、米国産コメへの無関税枠を設けなかったことは、コメ農家にとっては朗報といえる。理由とされるのが、主産地であるカリフォルニア州は元々、野党民主党支持者が多く、票にはならないとみたからという。すべてが選挙絡みで、対日貿易赤字が縮まらない場合には、再度、脅しをかけてくるのではないか。

 「自由貿易の旗手」を自任する首相は米国にTPP復帰を求めるのが本来の姿だった。やむを得なかったとはいえ、2国間交渉の妥結で復帰の道は閉ざされたも同然だろう。

 政府は国内の手続きに入ることになるが、10月4日からの臨時国会では協定内容の詳細は無論、農業などへの影響と、それに対する施策などをつまびらかにしなければならない。野党側は反発を強めており、最大の火種になりそうだ。

 トランプ氏はサービス分野を含む包括的な自由貿易協定(FTA)の交渉も示唆した。知的財産や金融など国内制度に関わる分野だ。日本は拒否する方針というが、拒み続けられるかは見通せない。

 首相は米国で余ったトウモロコシの購入を約束した経緯がある。今回の協定も米国が中国との貿易摩擦で生じた不利益を日本が肩代わりした格好ではないか。米中交渉が進展しない限り、譲歩の連鎖は続くとみるべきだろう。

関連記事