【論説】政府の全世代型社会保障検討会議が議論をスタートさせた。安倍晋三首相は会議の冒頭「全世代型社会保障への改革は安倍内閣の最大のチャレンジだ。社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討していく」と表明し、残り任期2年の政権のレガシー(政治的遺産)にしたい考えのようだ。

 だが、主要な検討項目とされる年金の受給開始年齢の選択肢拡大や、パートやアルバイトで働く人の厚生年金加入拡大に向けた要件緩和など、多くは別の政府会議で方向性が示されており、既視感は否めない。

 検討会議のメンバーも中西宏明経団連会長や新浪剛史サントリーホールディングス社長、増田寛也元総務相ら既存の政府会議の常連ぞろい。省庁横断的な議論を進める狙いなのだろうが、首相や官邸の意向に沿った結論を導きやすい陣容ともいえる。

 問題は、後期高齢者の医療機関受診時の窓口負担や、介護サービス利用者の負担を今の1割から2割に引き上げるなど「痛み」を伴う改革に踏み込めるかだ。西村康稔担当相は「財政の視点のみで必要な社会保障をばっさり切ることは考えていない」と、はや予防線を張るかのような発言であり、議論の俎上(そじょう)にさえ上らない可能性もある。

 今回の改革は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり始める2022年以降、社会保障給付費が膨れ上がることに備えてのものだ。政府の試算によると、年金や医療費などの給付費は18年度は約121兆円だったが、団塊世代の全員が後期高齢者となる25年度は約141兆円、高齢者人口がピークを迎える40年度には約190兆円に膨らむ。

 パート労働者らの厚生年金加入の拡大一つとっても、保険料の半分を負担することになる中小企業の経営を圧迫しかねず、高齢者に負担増を求めるのも反発は必至だろう。だからといって、このまま無策では済まされない。

 全世代型の先駆けは、消費税増税と並行して10月から実施される幼児教育・保育の無償化と、20年度からの低所得世帯の高等教育無償化など。首相の突然の表明がなければ、増収分5・7兆円の約8割が財政再建に充当されるはずだったが、半分になった。将来世代のための改革が将来世代への借金のつけ回しを増やすようでは本末転倒だろう。

 一方で検討項目とされる案だけでは焼け石に水との指摘がある。さらなる消費税増税など財源の検討は避けて通れないが、会議では触れない見込みという。参院選の討論で首相が発した「今後10年ぐらいは上げる必要はないと思っている」が足かせとなっているとしたら、禍根を残す発言だったと言わざるを得ない。

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