【越山若水】松尾芭蕉が元禄2(1689)年に「奥の細道」の旅をしてから今年は330年。旅の終盤、杖(つえ)をおいた敦賀市が記念行事などで盛り上がっている。先日は講演会があった▼和洋女子大の佐藤勝明教授は「月清し遊行(ゆぎょう)のもてる砂の上」の句について「『奥の細道』でも一、二を争う重要な句」と指摘した。気比神宮を参拝したときに聞いた「お砂持ち」の故事がテーマ。月に照らされ輝く境内の白砂は、参道のぬかるみを修復するため二世遊行上人が浜から運んだ。代々の上人も砂をまき続けた「貴い志の集積」だ。無常の世の中でも受け継がれる古人の清らかな心にいたく感激した句という▼翌日は雨天だった。心待ちにしていた中秋の名月が見られず詠んだのが「名月や北国日和定なき」。佐藤教授は「芭蕉はがっかりした話題を大切にしていた。よくないことこそ文学にとっては大事」と語る。見えない月のイメージが浮かびかえって心に残る句になった▼奥の細道は旅の忠実な再現ではない。旅を記録した別の資料と比べると事実と異なる点が少なくない。推こうを重ね、創作された文学作品である以上いかに面白く楽しく読むかは読者の自由だ▼敦賀市立博物館では、地元に残る資料や俳諧人による顕彰活動を紹介する特別展を開催している。これらも参考に、改めて魅力の詰まった奥の細道をじっくり味わってみたい。

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