【越山若水】「猫じやらし吾(わ)が手に持てば人じやらし 山口誓子」。秋になって人家の庭先や田んぼの道端など至る所で見かけるネコジャラシ。イネ科の一年草で成長力たくましい雑草である▼正式名称は、子犬のしっぽのような緑色の穂をつけることから、犬コロにちなんで「エノコログサ=狗尾草」と呼ぶ。それでいて、子供たちが毛虫のような穂を抜き取って、猫の鼻先で揺らしてからかうためネコジャラシの愛称がある。こっちの方がおなじみだろう▼なんにせよ、犬と猫の両方の名前を持つほど特異な存在だ。“雑草の日本代表”と言ってもよく、全国的に親しまれている。昭和の時代に生きた年配者なら、ネコジャラシで遊んだ記憶が鮮明に残っているはず。「猫じやらし持てばじやらさずにはをれず 西宮舞」▼かつては青草を刈って牛や馬の飼料にしていた。学術的に見れば、ネコジャラシの穂をもっと大きく改良したのがアワだという。稲が渡来する前のアワは日常の主食とされ、米や小麦が育たない地域では貴重な穀物資源で、豆やキビと並び五穀の一つにも数えられた▼その歴史を継承し、宮中の新嘗(にいなめ)祭には献穀粟(けんこくあわ)が供えられる。今年は皇位継承に伴う大嘗(だいじょう)祭が営まれる特別な年回り。6月に若狭町で種まきされたアワはたわわに実り、今週26日の抜穂(ぬきほ)式を待っている。「鳴子きれて粟の穂垂るゝみのり哉(かな) 正岡子規」

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