【論説】東京都目黒区で昨年3月、5歳だった船戸結愛ちゃんを元夫とともに虐待し、死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親優里被告の裁判員裁判で、東京地裁は懲役8年の判決を言い渡した(求刑同11年)。元夫からの心理的DV(ドメスティックバイオレンス)の影響を認めつつ、幼い命が失われた結果に対し厳しい姿勢を示した判決といえる。

 結愛ちゃんは、極めて不十分な食事しか与えられず暴力を振るわれ続け、低栄養状態や免疫力低下による肺炎が基になった敗血症で死亡した。意識を失う前に発した言葉は「おなかが痛い」だったという。判決が「不保護の態様は悪質で強い非難に値する」としたように、むごい事件だった。

 結愛ちゃんがノート片に「もうおねがい ゆるして」などとつづったことについて、優里被告は公判で、元夫の雄大被告に怒られるのを防ごうと一緒に書いたと供述した。判決もこれを認めた。結愛ちゃんに添い寝して看病したり、死の数日前には「小学校に行ったら楽しいことしようね」と励ましたりしたこともあったという。

 にもかかわらず、優里被告が犯行に加担したのは、雄大被告の心理的DVの影響であると判決は認定している。その上で「逆らいにくい面はあったにせよ、最終的に自らの意思で指示を受け入れた」「最後の場面で結愛ちゃんを助けるため心理的影響を乗り越える契機はあった」と指摘。DVの影響について、責任を大幅に減じる事情とみることはできない、と結論した。

 虐待に配偶者間のDVが潜むケースは多くの事件に共通する。表面化しにくいのは確かだが、今回の事件は、母親に対する社会の支援が機能していれば結果は違っていたのではないか。

 児童相談所だけでなく、児童養護施設の中にも、家族間の悩みなどについて、家庭が破綻に至る前に相談するよう呼び掛けているところがある。安全網の在り方について、社会全体の課題とする必要がある。

 この事件は、虐待通告後の対応を政府が新たにルール化する契機ともなった。ところがそれ以後も、千葉県野田市、札幌市、鹿児島県出水市で虐待死や虐待の疑いがある死亡事件があり、いずれも児相、自治体、警察の対応・連携が問題となった。子どもを救うためのルールはあるのに、行政がそれを守れない異常事態が続いている。

 安全網であるべき各機関の対応力が人員不足から追いついていないのが理由だろう。だが、各機関の管理者・責任者は現状を把握しているはずだ。問題の放置は許されない。人員増強と人材育成に至急取り組む責任が、各自治体にはある。

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