【越山若水】越前市にある「お総社」の秋祭りは、その年もたいそうにぎわった。露店で古着を売った夫婦は大もうけし、良い気分で旅館に帰った。ところがその晩、売上金がごっそり盗まれた▼1932年の話で被害は約2300円。今の価値なら500万円ぐらいになる計算だろうか。ともかく大金である。犯人の男は数日後、一度は捕まったものの留置場から脱走。1週間後に再び逮捕されるまで、あちこちで食料などの盗みを繰り返し、住民を悩ませた▼男が警察に隠し通したことがある。祭りの夜に盗んだ金を、まちなかに程近い村国山の頂上で、松の木を目印に埋めていたのだ。逃げ回る間も土地を離れようとしなかったのは、金を取りに行く必要があったからである。今も金は、どこか土の中に眠っているという▼以上は県内の奇妙な事件を集めた「福井名探偵実話集」(74年、安田輝雄編)にある話。古書店で手に入れ、自宅本棚で眠らせていたが、図書館の子ども向け郷土本の特設コーナーを見かけた時、ふいに存在を思い出した▼端書きがなく事実にどこまで即しているか確かめるのは難しい。ただJRを当時「省線」と呼んだこと、警防団が竹やりを手に捜査に加わったことなどが分かり興味深い。風俗や言い伝えなど、郷土本はそこでしか知り得ない知識が詰まっている。しばらく図書館通いの目当てにしようと思う。

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