誠さん(仮名)が退職金で建てた平屋の小屋。ステレオの横にはクイーンのCDやDVDが並んでいる=8月、福井県福井市内

 「4月から参与になってほしい」―。今年の正月明け、会社の常務執行役員だった誠さん(仮名、64)=福井県福井市=は社長に言われた。

 組織には若い人たちの発想が必要だと思っていたから、心の準備はできていた。「ただ実際に言われると、実務から離れる寂しさがあった」

 その頃、妻に誘われ、英ロックバンド「クイーン」の軌跡を描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見た。好きな音楽に全エネルギーをつぎ込む生き方と、その音楽に元気をもらった。ファンでもないのに、サントラ盤などのCDとDVDを計6枚買った。

 会社では総務人事畑を歩み、OBや取引先の通夜葬儀には何度も参列した。元役員なのに、退任後だからか弔問客が少なく、寂しく感じる葬式もあった。たくさんの人生が垣間見える職場だった。

  ■  ■  ■

 20年ほど前、社内の「山歩きの会」に入り、月1~2回、日帰り登山した。頂上では手料理が振る舞われ、宴会のようだった。メンバーは退職してもOBとして参加した。「碁を打っているとか、地域のことで忙しいとか、先輩たちは会社を辞めてもポジティブに生きていた。会社の役職とは無関係だった」

 第二の人生を考え始めていた7年前、定年退職したばかりの三つ上の兄にがんが見つかり、闘病生活の末に亡くなった。「平均寿命はみんなに約束されているわけじゃない。やりたいことは今、やらないと」と強く思った。

関連記事