ものを作る人たちの物語だ。「ものを作る」におけるあらゆる葛藤がぎゅう詰めになった物語。「なんか、作るの、好きみたい」程度だったはずの人間が、作ったものを売って生きるようになるまでの物語。「作ったものを売る」ということは、「自分を問う」ということだ。自分が作るものには、どれだけの価値があるのか。それを作る自分には、どれだけの価値があるのか。自分には、それを作って売るだけの、資格があるのか。

 主人公の名は徳井。かつて大学の建築科で学び、「作る」ことに魅せられたものの、今は祖父が地元で営む修理業を手伝って暮らしている。

 そこへ、大学時代の友人である魚住が現れる。親交の深かった当時、仏壇職人をしていた徳井の祖父に一目惚れし、祖父についてまわっていた。魚住は、東京で会社勤めをしていた徳井が実家に戻り、あの頃夢を語り合った家具作りを始めたのだと思いこんでいる。そうではないと知ってショックを受けつつも、徳井にひとつの提案をする。一緒に、椅子販売の工房を作らないかと。魚住がデザインし、徳井が腕を振るう、唯一無二の椅子作りを。

 魚住が提案するのは、使い手の体形のみならず、その境遇や人生をも聞き取り、その使い手のためだけに椅子を作ることだ。近所の食堂に作品を一脚置き、それを見て、ひとりの客が相談に現れる。そう、「依頼」ではなく「相談」だ。「人生相談」だ。

 相手の人生をも織り込んだ作品作り。多くのクリエイターが胸を震わせるに違いない。「ものを作る」を生きる者は、「唯一無二」に焦がれてならない。代わりのきかない、かけがえのない、その人だけのための作品作り。それはすなわち、自分自身もまた、代わりのきかない、かけがえのない作り手であることの証明にもなる。

 やがて、主人公にひとつの転機が訪れる。魚住に押されるように始めた椅子作りに、果たして、自分自身はどのように関わっていきたいのか。他の誰でもない、自分自身の思いを自分に問う。代わりのきかない人生。それは意外と、すでに、この手の中にあるのかもしれない。

(幻冬舎 1500円+税)=小川志津子

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