【越山若水】試合が終われば敵も味方もなくなるから、その瞬間を「ノーサイド」という。選手はどんなに激しく戦った後でも互いをたたえる。ラグビーについて、よく語られる気高い精神である▼ところがこの理解は、間違いとはいえないまでも、不十分だったと最近知った。試合終了の意味でこの言葉を使っているのは日本だけだそうだ。世界では「フルタイム」が普通らしい。終わったらノーサイド、こそラグビーの本質と思っていたから少々びっくりした▼かつては世界でも使われていた。ラグビージャーナリストの小林深緑郎(しんろくろう)さんが動画サイトで過去の海外の試合を見たところ、ノーサイドからフルタイムに切り替わったのは1970年ごろではないかという。強豪国のニュージーランドでは50年代から使われていない▼ノーサイドの精神は失われた? と早合点しかけたが違うようだ。ラグビーの価値は勝敗より全力をぶつけ合うことそのものにある。相手に敬意を払うべきなのは試合前も試合中も同じ。とすれば終了時あえてノーサイドと言う必要はない、ということかもしれない▼大学選手権の前身、東西大学対抗の記録をのぞくと、優勝校を決めていない年が多い。よい戦いをしたらそれで満足だったのである。スポーツに勝利至上主義がはびこる現代。あすから始まるW杯、ラグビーはひと味違うと見せてくれるか注目だ。

関連記事