【越山若水】「生き物はDNAだけでは決まらない!」と題した日本遺伝学会の公開市民講座が福井市で開かれた。生き物の特徴を決める遺伝子の働き方は、環境などの影響を受けて常に変化するという新しい考え方「エピジェネティクス」を研究者が紹介した▼聞き慣れない言葉だが、身近に事例がある。一卵性の双子のDNAは同じだが、性格や病歴などさまざまな違いがある。環境などの変化により、遺伝子のスイッチのオンとオフが変わって起きる現象という▼双子以外にも、三毛猫の模様や斑(ふ)入りのアサガオなどでも遺伝子の機能を調節する仕組みが働いている。さまざまな分野で、この現象の研究が進んでいる▼病気との関係が分かれば新しい治療薬の開発につながる。福井大の沖昌也教授(47)らの研究チームは、白内障の進行を抑える化合物を世界で初めて突き止めた。現在は予防薬を開発中だ。金沢大では、近年急増している自閉症との関連を探っている▼2003年にヒトゲノム(全遺伝情報)の解読が完了したが生命現象を理解するには不十分だった。そこで、エピジェネティクスに世界の科学者の目が注がれている。「いずれ高校の生物の教科書に記載され、この分野の研究にノーベル賞が出る日も遠くない」と沖教授は語る。メカニズムにはまだまだ謎が多いが、新しい生命観が生まれる予感に満ちた研究分野である。

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