男子で優勝し、駒沢大陸上部の大八木弘明監督(右)と握手を交わす中村匠吾=東京・明治神宮外苑(代表撮影)

 東京都内の主要道路を封鎖して行われた、東京オリンピックのマラソン代表決定戦、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)。

 男子で真っ先にゴールしたのは中村匠吾(富士通)だった。

 中村は企業に在籍しながらも、駒沢大学時代の恩師、大八木弘明監督の下で練習を積んでいる。

 ゴール付近で、大八木監督は満面の笑みを浮かべていた。

 「これまで駒沢の卒業生は、世界陸上止まりだったんです。ようやくオリンピック選手が出ました!」

 監督の目からは、入学したての中村がここまで化けるとは想像できなかったという。

 「スピードは持っている子でした。1、2年の時まではどちらかといえば5000メートルや10000メートルで勝負するトラックタイプ。それが上級生になってから変わってきました。3年ごろから長い距離のロードにも適性があることが分かってきて、駅伝でも万全の調子ではなかったとしても、うまくまとめて区間賞を取ったり。速さに加えて強さも出てきて、一緒にマラソンでオリンピックを目指そうとなったんです」

 中村がマラソンで勝負しようと考えたのは大学3年のとき。企業には在籍するものの、練習は大八木監督の下で…というスタイルにこだわった。

 今回の中村の勝因の一つに挙げられるのが、昨年の同時期にベルリンマラソンを走ったことである。

 中村は、初マラソンとなる昨年3月のびわ湖毎日マラソンで2時間10分51秒のタイムをマークし、MGCの出場権を獲得する。これで余裕を持って調整に入ることが可能になった。

 MGCの出場権を獲得するために、今年に入って駆け込みでレースを重ね、本調子ではなかった選手とは対照的である。

 そして2度目のマラソンに選んだのが、昨年9月16日のベルリン・マラソンだった。

 「MGCとちょうど同じ時期に開かれるため」というのが選んだ理由だった。

 中村は、夏場の長丁場で2時間8分16秒の好タイムをマークするが、このマラソンを走った最大の収穫は、9月中旬のレースに向けた合宿時期、練習方法をつかんだことにあった。

 「ベルリンは9月16日、MGCは9月15日だったので、去年と同じリズムで練習ができましたし、昨年との練習でのタイム比較も可能でした」

 本番に向けての「カレンダー」を体得したところに、今回の勝因があった。

 東京オリンピックの男子マラソンは、8月9日に行われる。今回より強化日程は1カ月ほど前倒しになる。体内カレンダーの調整は十分可能だろう。

 おそらくは酷暑のレースとなる。そうなれば、必然的に優勝タイムは2時間10分前後となり、日本の選手にもチャンスが出てくる。

 今回のMGCで中村が見せた終盤での勝負強さは、オリンピック本番でも大きな武器となるだろう。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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