【越山若水】「子(み)結びて花は暗(くろ)ずみて凋(しぼ)み、繭(まゆ)成りて蚕(かいこ)は老いて死す」。唐の詩人白居易が詠んだように、この世に生まれたものは、植物でも動物でも必ず死に至る。ならば人間も同じである▼しかし物は考えよう、悲観的になることもない。春秋時代の思想家孔子の言行録「論語・述而(じゅつじ)篇」にこんなエピソードが残されている。楚の葉公(しょうこう)が「孔子はどんな人であるか」と弟子の子路に尋ねた。その場で何も答えなかった子路を孔子は次のようにたしなめた▼「其(そ)の人と為(な)りや、憤りを発して食を忘れ、楽しみて以(もっ)て憂いを忘れ、老いの将(まさ)に至らんとするを知らざるのみと」。興奮すると食事も取らず、楽しむばかりで悲しみも忘れる。老いが迫ってくるのも知らずにいる、そんな人だ―。そう答えてほしかったと孔子は言う▼死は人の必定とはいえ、それを忘れるほど楽しいことに熱中して今を生きる。「楽しみて憂いを忘る」を身上とし、子どものように無邪気な人間でありたいと孔子は告白する。そして紀元前の時代に73歳の生涯を閉じた(「生と死のことば」川合康三著、岩波新書)▼全国の100歳以上の高齢者が49年連続で増加し、初めて7万人を突破した。健康増進や介護予防の効果は見逃せないが、当のお年寄りたちは「好きなことに熱中する」ことを長生きの秘訣(ひけつ)に挙げる人も多い。孔子の語る人生観とピッタリ符合する。

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