そもそも全然興味なかったし、当時はCoccoにくるり、はっぴいえんどなんかに夢中だったから、出てたらチャンネル変える勢いだった。けど、リモコン片手にザッピングしてて、たまたま見かけた歌番組に一度、目を奪われてしまったことがある。全然好きじゃなかったのに、その切実に歌う姿に、目が離せなくなったのだ。

 浜崎あゆみ。90年代後半から00年代初頭に社会現象を起こすほどに人気を呼んだ……なんて説明するのも野暮だろう。そんな「歌姫」に関する新刊は、自伝的小説?否、「事実に基づくフィクション」だそう。そもそも全然興味はなかったけど、やはり青春時代に大ヒットしていて、少なからずそれを横目で見ていた者としては、読まないわけにはいかんだろ、と購入。

物語はデビュー前、あゆが高校に入学した頃から始まる。

 話題のクラブのVIPルームで、彼女は一人の男性と出会う。それがMax Matsuuraこと、松浦勝人との出会いだった。当時から敏腕音楽プロデューサーとしてその名を轟かせていた松浦とあゆは、音楽を通じて次第に心を通わせていくが……。

 まず何が衝撃って、あゆの一人称は「あゆ」なんですね。そんでもってマサこと松浦勝人も「あゆ」って呼ぶから、正直最初はどっちが話してるのかわからなくなる瞬間多数。

 これさ、フォント変えるとか、セリフの前にあゆならハート、マサならスペードを入れるとかわかりやすいですけど、いかがでしょうかデュエット戦法。音楽を介して次第に心を通わせる二人だけに。ダメです、ね。はい。

 それにしても、浜崎あゆみの歌詞の強さにあらためて感服。心に添って、内なるものを綴っているから、どれも説得力があって、まっすぐ。それに、歌詞は物語の随所に散りばめられているのだけど、どの歌詞も違和感なく物語に組み込まれていて、きっと作詞をした当時も、本書執筆にあたり口を開いた今も、彼女は正直であるんだろなって思わせる。

 ……と、感心しながら読み進めていたのだけど、ひとつ、どうしてもひとつ、気になる箇所が。それは(一応お伝えしますけど以下ネタバレ注意ですからね)、仕事へのプレッシャーが日に日に大きくなるマサは酒を浴びるように飲むようになっていくのですが、あゆはそんなマサの体を気遣い、飲み過ぎの危険性を伝えたかったんですね。で、考えたあゆは二人で住んでいる部屋にそっと、レンタルビデオ店で借りてきた二つのビデオを置いておくんです。健気。その作品が『リービング・ラスベガス』と『バスケットボール・ダイアリーズ』。アルコール依存症の主人公の物語と、ドラッグに溺れる若者の物語……覚せい剤ダメ絶対的映画ですけど大丈夫でしょうか!!!!あれ、酒の話してましたよね?おっかしーな、おクスリの話、出てましたっけ?あ、依存性の恐ろしさっていう共通点で選んだんだよね、体を蝕むっていう意味では酒もクスリも似たようなもの、ではない。かたや合法、かたや違法。いや、やってないと思いますよ。潔白だと思いますが、あらぬ想像をさせてしまうようないらん情報はカットして欲しいな、あゆ。いやあゆじゃねえ。編集さん!そこはトルツメの方向でひとつよしなに……!

 小さな、ありふれた幸せを求めて、マサを献身的に支えていたあゆですが、二人の歯車はいつしか噛み合わなくなっていく。マサは次第に二人の部屋に帰ってこなくなり、ある日あゆがマサのいる別宅を尋ねると、男女何人かでバカ騒ぎのパーティーしてて、マサが女の子とイチャコラしてるとこを目撃ドキュンであゆショック。それが別れの引き金になってしまった。それから時は流れ2018年。あゆとマサは再会し、再びタッグを組むことを決意し、ステージの幕が上がり、物語は終わりを迎える……。うん、大変面白く読ませていただきました。本書を刊行するにあたって何がすごいって、マサがひと肌もふた肌も脱いだところかと思います。相手役でありながら酒に溺れ女に手を出し、裏切者の役も買って出てますから。それにあゆを横浜の実家に連れて行ったというエピソードや、物語の端々に「別れてもマサはかけがえのない存在」ってのが散りばめられている。一応共有させていただきますが、マサ、ご結婚されていらっしゃいますからね。それでもここまでさらけ出していいよ、こういう風に書いていいよって言ってくれたのは、愛……かはわからないけど。

(幻冬舎 1400円+税)=アリー・マントワネット

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