【越山若水】全国公開中の映画「引っ越し大名!」(犬童一心監督)は生涯7回もの国替えとなった福井ゆかりの大名松平直矩(なおのり)をモチーフにした作品だ。引っ越しをめぐる騒動をコミカルに描いている▼直矩は江戸前期、越前大野藩主松平直基(なおもと)の長男として生まれた。直基は徳川家康の次男結城秀康の5男。初代越前勝山藩主、山形藩主も務め、姫路藩(兵庫県)に赴く前に死去し直矩が跡を継いだ。結局、直基系松平家は幕末までに大名家最多の12回の国替えをした▼国替えは幕府の大名統制手段として行われ、莫大(ばくだい)な費用とともに城の受け渡しや長距離移動など大変な労力を必要とした。映画は姫路から豊後日田(大分県)への引っ越しを描く。領地の石高が半減ともなる苦境を、知恵と工夫で乗り切った藩士の活躍が見どころだ▼天下の三名槍(めいそう)の一つ「御手杵(おてぎね)の槍(やり)」も映画に登場する。結城秀康の養父晴朝が作らせ秀康の子孫に伝わり、結城松平家の象徴として藩士の心を束ねた。惜しくも東京大空襲で焼失したが、近年復元品が作られ話題になった▼住み慣れた土地を離れ見知らぬ地へ移る藩士がいる一方、財政が厳しくなるため藩からリストラされ、農民として元の土地にとどまらざるを得なかった者もいた。国替えには諸事情があるとはいえ藩士は大変だ。辞令一枚で運命を左右される現代サラリーマンの姿が重なって見えてきた。

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