【論説】27回も首脳会談を持ちながら平和条約締結交渉は一向に進まず、むしろ後退している感が否めない。

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領がウラジオストクであった「東方経済フォーラム」出席を機に会談した。ただ、平和条約締結交渉に関しては、未来志向で作業を進める方針を確認しただけで、具体的な進展はなかった。

 交渉の進展に期待感を抱かせたのは、1年前のこのフォーラムで「前提条件なしの条約締結」とプーチン氏が持ちかけたことだ。昨年11月のシンガポールでの会談では、条約締結後の歯舞、色丹2島の日本への引き渡しを明記した1965年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで一致。日本側には、今年6月に大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の際にも大筋合意できるとの観測もあった。

 だが、ここに来てロシア側が無理難題をふっかけてきた。一つは、北方領土が第2次大戦の結果、正当にロシア領になったことを認めるよう、かたくなに主張している点だ。日本側は長年、北方領土返還運動などで、日本固有の領土であり、ソ連が中立条約に反して侵攻して以降、不法占拠状態にあるとしてきた。

 安倍首相らは国会などで交渉に配慮してか、「固有の領土」「不法占拠」といった言葉を封印してきた。下手に出る作戦だろうが、それをいいことにロシア側はさらに譲歩させようと主張を強めている。日本としては主権に関する基本認識は譲れない一線だ。

 ロシアの無理難題のもう一つは、北方領土を返還した場合、日米安全保障条約に基づき米軍が配備されかねないとの懸念を表明したこと。日本の自衛隊が運用することになっている地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」も脅威だとしている。その一方で自らは北方領土での軍備拡張を着々と進めているのが現状だ。

 世論調査ではロシア国民の約7割が北方領土の引き渡しに反対。加えて、プーチン政権の経済失政や強権的な姿勢への不満が高まり、政権与党への支持率は過去最低の32%に落ち込んでいる。今回の首脳会談の直前にプーチン氏が色丹島の水産加工場の稼働式典にビデオ出演したり、8月にメドベージェフ首相が択捉島を訪問したりしたのも世論対策の一環だろう。

 経済協力にしてもロシアは国内法の適用を主張しており、進展は見通せない。安倍首相は交渉の行き詰まりを率直に認めるべきだ。4島返還から2島返還に事実上、転換した経緯も国民に説明する必要がある。その上で難題をどう乗り越えていくか、最善を尽くしていかなければならない。

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