【越山若水】「罪と罰」はロシアの文豪ドストエフスキーの小説である。頭脳明晰(めいせき)ながら貧しい青年が「一つの罪は百の善行で償われる」との考えから、強欲な高利貸を殺害し苦悩する物語である▼この世界的な名作について、作家の中村文則さんが「自由思考」(河出書房新社)で面白い考察をしている。主人公は学費を払えず大学を中退し、母親の年金はすずめの涙。知り合いの娘は家計を救うため身を落とす羽目に…。やたらとお金にまつわる話が登場する▼その理由は当時、ドストエフスキー自身がお金に困っていたから。彼はギャンブル狂で、ルーレットで莫大(ばくだい)な借金を背負い、自分の版権を売ってまで賭博につぎ込んだ。「罪と罰」は社会の貧困を描いた自然主義文学というより、借金漬けから生まれた小説だという▼中村さんは皮肉を込めて「ドストエフスキーのお金への執着が名作を生んだのなら、ルーレットも悪くない」と解説する。さて、観光庁がカジノを含む統合型リゾート(IR)の選定基準を公表した。来年までに最大3カ所を選び、開業は2020年代半ばの見込み▼審査では訪日外国人の増大や雇用創出効果、国際会議の対応、さらにギャンブル依存症の対策などをチェックするという。とはいえ、かの文豪も取りつかれた賭け事の魔力には不安を覚える。日本版「罪と罰」が誕生しないか、ハラハラしている。

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