水上勉さんの人柄や作品について、長女の蕗子さん(中央)と研究者が語り合った座談会=9月1日、福井県福井市の福井県立図書館

 福井県おおい町出身の直木賞作家、水上勉さん(1919~2004年)の生誕100年を記念したシンポジウムが9月1日、福井県福井市の福井県立図書館で開かれた。その生涯と文学に迫る「水上勉の時代」を刊行した研究グループのメンバーが講演したほか、長女の蕗子(ふきこ)さんを交えた座談会があり、水上さんが持つ多面的な魅力に光を当てた。

 福井県ふるさと文学館などが企画した。水上さんの「戦後文学」「社会派」「編集者」というそれぞれの側面から、研究グループの大木志門さん(山梨大准教授)ら3人が講演、研究協力者の劉晗(りゅうかん)さん(城西国際大博士課程)は「満州体験者としての水上勉」を語った。水上ファンら約100人が聴講した。

 大木さんは、事実に虚構を含んだ水上さんの小説の技法に着目。社会派推理小説「霧と影」「飢餓海峡」、推理小説に私小説的な要素がある「雁の寺」を例示。さらに史実に虚構と私性が加わる「金閣炎上」などを挙げ「事実としての歴史や自己を相対化し続けたところに革新性がある」と指摘した。

 社会派としての水上さんについて、高橋孝次さん(帝京平成大助教)が解説した。一群の推理小説について▽描写が克明▽都会と地方をつなぐ▽社会的弱者に寄り添い、共感する―という特徴を挙げ、事件の中に人間を描く文学表現を追究したと考察。掛野剛史さん(埼玉学園大准教授)は、戦中から戦後にかけ新聞社や出版社に勤めた水上さんの足跡をたどり、作家としての「自己形成期」のさまざまな人との交流を浮かび上がらせた。

 弱者に寄り添う水上さんの視点を、劉さんは満州での体験に見る。水上さんは1938年に満州に渡り半年ほど、肉体労働に従事する中国人「苦力(クーリー)」たちの監督見習いに就いた。劉さんは「水上さん自身が満州での体験について複雑な思いを抱いていた」とし、苦力の悲惨な境遇を描写したエッセーなどを紹介した。

 今年は水上さんの生誕100年で、没後15年という節目。座談会で、蕗子さんは「映画の主人公みたいな人だった」と振り返った。綿密な調査をした割に、取材ノートなどが少ないとの指摘に「頭の中に映像として残っていたんだと思う。そういう記憶力があったのでは」。作家の知られざる一面に、参加者は興味深そうに聞き入っていた。

関連記事