【論説】安倍晋三首相とトランプ米大統領との首脳会談で日米貿易交渉が大枠合意し、9月にも協定に署名する方針が示された。具体的な合意内容は明らかにしていないが、米国から輸入する農産物は環太平洋連携協定(TPP)の水準が上限となる見込みという。日本としては早期に署名したいところだろう。予測不能のトランプ氏が新たな難題を持ち出す恐れがあるからだ。

 ただ、トランプ氏の顔色をうかがうだけの姿勢はいただけない。日本がTPPで米国から得ていた自動車や部品への関税撤廃は見送り、中国に代わって米国産トウモロコシを大量購入する方針も表明するなど米国ペースが過ぎないか。来年の大統領選に向け成果を示したいトランプ氏におもねりすぎというほかない。

 トランプ氏に進言すべきは深刻化する米中貿易摩擦の解消だ。関税の応酬は世界経済に打撃を与え始めている。日本も急速に円高が進み、輸出産業を直撃している。日本経済が崖っぷちに立たされている状況にありながら、交渉決着で「両国の経済にとって大きなプラスになる」という首相の感覚は理解しがたい。

 TPPの関税水準でみると、段階的に引き下げられ牛肉は38・5%から9%、豚肉は高価格品が4・3%からゼロ、低価格品は1キロ当たり482円から最終的に50円になるとされる。日本国内の農家や畜産関係者からはTPP水準の見通しに安堵(あんど)の声も出るが、輸入拡大への懸念は尽きない。

 特に県内を含む養豚農家は豚コレラのまん延にあえぎ、新たにアフリカ豚コレラの危機にもさらされている。そこに輸入品が増えれば事業の継続にも関わる問題となろう。緊急輸入制限(セーフガード)で一定の歯止めをかけるなど対策が欠かせない。

 2国間貿易協定の締結は、米国がTPPに戻ってこないことを意味するものだ。自動車の対米輸出の数量規制や、通貨安誘導を許さない為替条項の導入といった要求について今回は見送られたもようだが、事あるごとに持ち出し揺さぶりを掛けてくる可能性も否定できない。

 トランプリスクに加え、米議会の動きも気がかりだ。米国がメキシコなどと進めた北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しでは議会が自国有利をもくろみ、政権に再交渉を要求した経緯がある。米議会は上下両院がねじれ議会となっている。野党の民主党が大統領選をにらみ、政権の弱腰批判を強めかねない。

 交渉に当たった茂木敏充経済再生担当相は「日本の農業をしっかり守る交渉ができた」と述べた。ならば、農家の不安解消のためにも可能な範囲での合意内容の公開を求めたい。

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