【論説】「被爆者を含む全ての戦争犠牲者を追悼した」。3年前の5月、当時のオバマ米大統領の広島訪問を本紙はこう伝えた。オバマ氏は所感で「戦争で殺された全ての罪なき人々」に思いをはせる、と言った。福井や敦賀の空襲犠牲者も含まれたことになる。この年暮れの安倍晋三首相による米ハワイ・アリゾナ記念館訪問と合わせ、平和の歩みの節目となるはずだった。

 だが、その後の世界は平和の後退が鮮明だ。令和になって初の終戦の日に当たり、過去に学び、不戦への決意を新たにしたい。

 英国のシンクタンクが毎年発表する「世界平和度指数」がある。2019年版の世界全体の指数は5年ぶりに改善したが、ここ10年間でみると約4%後退した水準という。日本は調査対象163カ国のうち平和な方から9位。ただ、以前より順位は下がっている。

 世界の混迷は昨年来、加速している。米中摩擦は安全保障を含めた対立が続く。米国がロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄した裏にも中国をけん制する意図がある。米朝の非核化協議は進展するどころか、北朝鮮が繰り返すミサイル発射を米国が容認し続けるという状況に行き着いた。人類の歴史的外交成果といわれたイラン核合意も、米政権はあっさり崩壊させた。日韓関係は互いの不信にがんじがらめの状態に陥っている。

 戦争のない時代が続いてきた日本も、いつ不測の事態に巻き込まれないとも限らない。この1年の間に、そんな不安が大きく膨らんでいるといえないか。

 日本の平和維持の礎は、やはり日米同盟である。安倍首相は7日、米国防長官との会談で「日米同盟の絆はかつてなく強固だ」と述べた。米国側はこれをどう受け止めただろうか。

 米国がベトナム戦争からの撤退に絡み進めた1972年の米中和解で、「日米安保は米国から中国への引き出物になった」と指摘したのはジャーナリストの故松尾文夫氏である。日本が米国の軍事的な傘の下にいることは再軍備化の抑止であり、中国もそれを歓迎したと書いた(「『日米安保』とは何か」藤原書店)。

 ベトナム撤退の背景には米共和党が抱えていた選挙事情があり、なりふり構わぬ自国第一はここから明確になったと松尾氏は分析する。米国は日米安保を最大限、国益に利用してきた。

 トランプ米大統領は今、米側負担が過大だとして日米安保への不満を隠さなくなった。米中関係を含めた世界の秩序のありようが変わりつつある中、トランプ発言は軽視できない。日米同盟の安定を維持しつつ、日本が平和への役割をどう果たしていくか。議論を深めていかねばならない。

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