【越山若水】北欧童話「ムーミン」の作者トーベ・ヤンソンの誕生日にちなんで、きょうは「ムーミンの日」。埼玉県飯能市に物語の世界を追体験できるテーマパークが今年オープンするなど、日本でのムーミン人気は今も健在だ▼日本では1969年にテレビアニメの放送が始まった。ただ、ヤンソンが小説の「ムーミン」を書き始めたのは戦時中だ。第2作「ムーミン谷の彗星」は45年、広島と長崎に原子爆弾が投下されたときに執筆していたという▼美術史家トゥーラ・カルヤライネンさんは、著書「ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」(河出書房新社)で、「原子爆弾の存在と核戦争の可能性は、芸術家や作家の作品に大きな影響を与えた」と指摘する▼作品「彗星」には、地球に衝突する彗星の影響で周囲の環境が変化していく様子が描かれている。目もくらむ真っ赤な光、あたり一面がふるえ、地がさける音…まるで原子爆弾投下のニュース映像のようだ▼児童書としては異例の破壊の脅威を描いたヤンソン。そこには戦時中の体験が反映していた。画家として活動していたフィンランドでは親しい人々が兵士として前線で死亡、自身は抑圧生活を強いられた。大胆な風刺画を描いて戦争の恐怖を表現し、醜い現実から逃れるためムーミンの世界を創り出した。ムーミン谷には自由を愛し戦争を憎んだ作者の魂が宿っている。

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