【越山若水】「複製画(コピー)を持って行っても相手にしてくれる西洋の美術館はありませんでした」と語る東京芸大の宮廻(みやさこ)正明名誉教授。そこで、オリジナルを超えた「スーパークローン文化財」を発案、世界の文化財関係者を驚かせた▼福井県立美術館で開かれている同大の特別企画展で、その成果を目にした。最新のデジタル技術と人の手業や感性を組み合わせた作品が並ぶ。中には、現在は失われたものや非公開の文化財もある▼法隆寺の釈迦三尊(しゃかさんぞん)像は実測データを基に3Dプリンターで原型を作製、富山県高岡市の職人が鋳造した。現在は欠落した螺髪(らほつ)の一部を復元し当時の配置に合うよう脇侍の左右を入れ替えた。元に近い仏像の姿を間近で目にし、そっと触ることもできた▼テロで爆破されたアフガニスタン・バーミヤンの東大仏天井壁画も、ほぼ原寸大で復元した。西洋風の女神や風神、仏様の供養者が描かれている。宗教は違っても、皆が仲良く平和に暮らしている世界を初めて知った。「文化はモノでなく魂を継承すること。それを再現するクローンで平和を訴えることができる」と宮廻さんは話す▼愛知県で開催中の国際芸術祭で、従軍慰安婦を象徴した作品などの展示が中止された。テロや脅迫ともとれる抗議があり、安全が確保できないのが理由だった。クローンのように、魂を継承する文化の在り方を考えたい。

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