【論説】広島はきょう、74年目の「原爆の日」を迎えた。長崎は9日に迎える。被爆者や関係者は、令和という新時代にこそ核廃絶を実現させたい、そんな思いを強くしているはずだ。しかし、世界はそうした願いとは真逆の動きがあらわになってきている。

 運用可能な核弾頭約4千発をそれぞれ保有する米ロは、1988年発効の中距離核戦力(INF)を4日前に失効させた。特定の核戦力全廃を義務付けるという、史上初の条約であり、検証措置も実効性あるものとして期待されていた。

 だが、トランプ米政権は、ロシアが条約違反の疑いのあるミサイル開発や配備を推進したとして昨秋、破棄を決めた。背景には軍拡路線をまい進する中国への警戒もある。これで2021年に期限の迫る新戦略兵器削減条約(新START)にも暗雲が漂う。条約は5年間の延長が可能だが、先行きは見通せない。

 加えて、米軍が最近、戦闘中の限定的な核兵器使用を想定した新指針をまとめていたことが判明。潜水艦に搭載する小型核弾頭の製造着手など「より使いやすい核」の導入にも拍車が掛かる。ロシアも対抗して新型核の開発に注力。核保有数300弱の中国も着々と増強を続けている。

 日本を含む北東アジアの安全保障情勢も予断を許さない。米朝首脳会談は3回に及んだが、北朝鮮の非核化は見えてこない。中東でも米国が離脱したイラン核合意は崩壊寸前にある。

 危機を訴える被爆者の声もか細くなっている。今年3月末で被爆者健康手帳を持つ人の数は14万5844人。高齢化で年々亡くなり、初めて15万人を下回った。平均年齢も上昇が続き82・65歳となった。被爆者がいなくなる日が近づきつつある。

 それでも、広島で約14万人、長崎で約7万4千人もの命をほぼ瞬時に奪った原爆の惨劇を決して風化させてはならない。被爆者が問うのは、人類史上、唯一の被爆国である日本の姿勢だ。米国追従一辺倒の安倍晋三政権は「核の傘」を重視し、被爆者らが署名を求める核兵器禁止条約に目を向けようともしていない。

 広島の松井一実市長は平和宣言で日本政府に対し、条約への署名・批准を求める被爆者の思いをしっかり受け止めるよう訴えるという。昨年の原爆の日の記者会見で核廃絶を「信念」と言い切った首相は、この訴えにどう応えるのか。

 高齢になって体験を語り始めた被爆者も少なくない。筆舌に尽くしがたい過酷な体験を今だからこそ伝えなくてはとの思いからだ。核兵器の不条理、非人道性を私たち一人一人が胸に刻み、「核なき世界」の扉を開けなければならない。

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