【越山若水】昭和、平成、令和といくら時代が変わろうと忘れてはいけないことがある。その一つが、8月になると思い出す戦争の記憶である。詩人、谷川俊太郎さんに心にしみる一編がある▼作品名は「大小」。「小さな戦争やむをえぬ 大きな戦争防ぐため/小さな不自由やむをえぬ 大きな自由守るため/一人死ぬのはやむをえぬ 千人死ぬのを防ぐため/千人死ぬのもやむをえぬ ひとつの国を守るため/大は小をかねるとさ 量は質をかねるとさ」▼劇作家、鴻上尚史さんが谷川さんの詩編から人生に力を与えてくれるものを選択した本「そんなとき隣に詩がいます」(大和書房)の所収。その中の「戦争なんて起こってほしくないと思ったら」の項目で紹介されている。平明ながら、ズシリと胸を打つ作品である▼というのも、つづられる言葉の一つ一つが、これまでの幾多の戦争で語られた「大義」とそっくりだからだ。太平洋戦争で日本を焼け野原にした米国は、早期終結の名目で悪魔の兵器に手を伸ばした。敗戦したわが国も戦時中、同じような理屈を喧伝(けんでん)したことがある▼74年前のきょう、米軍のB29爆撃機は広島市に世界初の原子爆弾「リトルボーイ」を投下、約14万人の命を奪ったとされる。惨事を二度と繰り返すまいと平和を願う記念日だが、世界では今も「大義」をかざす紛争が絶えない。人間の身勝手が悲しい。

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