【越山若水】長野県に「スガレ追い」と呼ばれる風習があるという。スガレとはクロスズメバチ。巣を山中で探し当て、幼虫を食用にする。井伏鱒二は随筆で「八ケ岳育ちの蜂の子は不思議においしい」と書いた▼やり方はこうだ。カエルなどの餌を木の枝につるしてハチを誘い、巣に運ぶところを追いかけ場所を確かめる。このときは山中を猛ダッシュせねばならない。後は煙でいぶしてハチをまひさせ、地中の巣を掘り出す。ハチにとって人はまさに天敵▼とはいえ、各種のスズメバチは戦いに特化したような昆虫である。天敵たる人まで攻撃する性質を持つから怖い。「人を襲うハチ」(小川原辰雄著)によれば、人の頭や目が弱点と知っている。毒針は肉を裂く機能を持つ精巧な武器。国内のハチ刺しの死亡例は年間20人前後に上る▼暑さが本格化し、ことしもスズメバチ被害のニュースが聞かれ始めた。気温が高い年は被害が目立つといい、猛暑が当たり前の近年は危険度が高まっているかもしれない。都市環境へのハチの適応や宅地の郊外化が進み、人とハチの接点も増えている▼小川原さんは、スズメバチの狩りは虫の異常発生を抑え自然界のバランスを保っていると説く。本来、互いの領分を守り共生を図りたい相手なのだ。キャンプなどの機会も多い時期。いったん野山へ入ればそこはハチたちのすむ世界と心得ておきたい。

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