【論説】日銀が7月の金融政策決定会合で、「予防的な追加金融緩和」への前向き姿勢を明確にした。現行の緩和策を維持しつつ、緩和方向にかじを切る米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)に歩調を合わせた。大規模緩和を長く続け、追加策に乏しい日銀が、苦境の中で行った「口先介入」である。

 米中摩擦長期化を受け、為替相場に不安定さも見られる中、当面の円高懸念回避が狙いとされる。ただ、景気の先行きは楽観できず、10月に消費増税も控える。追加策の手段の少なさは打ち出すタイミングが限られることも意味する。日銀が効果的な「次の一手」を探る道は容易でない。

 日銀は今回の展望リポートで、物価安定の目標に向けた勢いが「損なわれるおそれが高まる」場合、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる、との方針を明記した。

 従来は「勢いが損なわれるような場合」に追加緩和を検討すると説明しており、「おそれが高まる」の文言を加えた。黒田東彦総裁は会見で「おそれが高まるとは、まだ損なわれていないとの意味。予防的な緩和というところに一歩進めた」との趣旨を語った。

 金融政策を当面は維持した中でも、リスクに対する強い姿勢を示した形である。予防緩和の考え方を取り入れた理由として、黒田総裁は保護主義の高まり、英国の欧州連合(EU)離脱の行方、中国経済の先行きなど海外経済のリスクを挙げた。

 ただ、具体策となると、日銀には高いハードルが待ち受ける。黒田総裁は▽短期政策金利の引き下げ▽長期金利操作目標の引き下げ▽資産買い入れ拡大▽マネタリーベースの拡大ペース加速―といった手段を示し、これらの組み合わせも考えられるとした。

 だが、金融機関の収益が悪化する中で、これらの策に支持が広がっているとはいえない。これ以上、貸し出し余力をそぐことになれば、景気の下支え効果に疑問符が付く。

 黒田総裁は、物価安定に向けた勢いは「足元では損なわれていない」と述べた。消費者物価の前年比は2%に向けて「徐々に上昇率を高めていく」との見通しを維持。消費増税の影響も前回増税時に比べ限定的としている。いずれも強気の見方を崩していない。

 だが、消費者物価見通しについては金融政策決定会合の委員の中にも「上昇率を高めていく可能性は現時点で低い」と反対意見があった。FRBは、米中摩擦の長期化に懸念を深めている。強気一辺倒の姿勢では、戦略構築に丁寧さを欠くことにならないか。日銀には、景気リスクの慎重な注視を改めて求めたい。

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