【越山若水】新美南吉の児童文学「ごんぎつね」が初めて教科書に登場してから60年以上になる。今では小学4年生のすべての教科書に掲載されている。福井県内でも「スーホの白い馬」と並んで、最も長く教科書で使われ続けてきた作品だ▼坂井市の県教育博物館で開かれている企画展「~もう一度読みたい~国語教科書」で、「ごんぎつね」にオリジナル版があったことが紹介されている▼愛知県半田市出身の南吉は、18歳のとき口伝をもとに物語にまとめた。これを児童文学者・鈴木三重吉が書き換え、雑誌「赤い鳥」に掲載した。教科書にはこちらの版が使われている。南吉の自筆原稿と比べると、南吉に話をしてくれた元猟師の説明や方言を省くなど地域色が薄まっている▼さらに、ラストシーンで三重吉は、「ごん」の気持ちを表す言葉を削除した。文学作品の修正といえば、井伏鱒二が代表作「山椒魚」の末尾を削除した件が思い浮かぶ。読者には賛否両論があった▼企画展では、教科書の「もう一度読みたい作品ランキング」を発表している。福井県民3千人へのアンケートで、「ごんぎつね」は中学生の3位、大人(20~60代)の2位と、今でも人気がある。公文書の書き換えは政治問題になった。だが、文学作品は読者が善しあしを判断する。南吉と三重吉、2人の作品に込めた思いや効果を読み比べてみてはどうだろう。

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