芸能界の諸問題に詳しい佐藤大和弁護士 (C)oricon ME inc.

 19日、吉本興業が雨上がり決死隊・宮迫博之のマネジメント契約解消を発表したが、いまだ解決したとは言い難い芸人たちの“闇営業問題”。反社会勢力に関わったことはもちろん問題だが、いまや論点は芸能事務所の契約やタレントの労働環境にまで波及。それぞれに懸念があることが浮き彫りになった。当事者への批判も大きいが、そもそも根本的な問題点は何なのか? これまで、芸能人の権利問題や芸能法務に携わってきた佐藤大和弁護士(レイ法律事務所・日本エンターテイナーライツ協会)に、芸能界の現状と今後取るべき方策を聞いた。

【写真】ニヤリ…ランジェリー姿のスレンダー美女を見つめる宮迫博之

■「他業界なら公正取引委員会がすぐに動く」、芸能界には腰が重い行政

 6月6日、カラテカ・入江慎也の仲介により、雨上がり決死隊の宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号の田村亮らが振り込め詐欺グループの会合に参加したという報道がなされ、いわゆる“闇営業”が大きな問題となった。当初、宮迫らは、会合が振り込め詐欺グループ主催であることは知らず、金銭の受け取りもなかったと発言していたが、事実関係を調査した所属の吉本興業により、金銭の受領があったことが判明。芸人13名に処分が下された。また、ワタナベエンターテインメント所属のザブングルにも同様の会合に参加したことが発覚し、謹慎処分に。7月19日には、吉本興業が宮迫とのマネジメント契約を解消することを発表した。

――社会的に大きな問題になっていますが、弁護士の立場からすると、どこがキーポイントになっていると思われますか?

【佐藤大和】整理すると、吉本興業さんに関しては、専属契約に関する「契約書」が存在しないこと。それに付随して、もし契約書があったとしても、専属に関する説明が不十分であったり、報酬の面で不安定さがあったりすると、事務所に頼れないという理由で直営業(事務所を通さない営業)をしてしまう土壌ができてしまっていること。さらに言えば、こうした問題が起こっても、なかなか行政が踏み込まないことが一番注目すべき点だと思います。他の業界、例えばAmazonや楽天、セブンイレブンなどの問題では、公正取引委員会がすぐに動きましたよね。でも芸能界となると、なかなかタッチしないんです。

――それはなぜなのでしょうか?

【佐藤大和】大きな問題には、法律の不備があります。まず芸能人と事務所の関係として、芸能人本人が「個人事業主」であるか、「労働者」であるかで大きく変わります。労働者にあたれば、労働法令が適用されます。でも、個人事業主なら独占禁止法等が適用されます。このように「労働者」か「個人事業主」かの判断が難しい場合、法律が異なるため、なかなか切り込んでいかないんです。

■事務所と係争になる場合は?「芸能人側は契約書がない方が争いやすい」

――事務所と芸能人の間に契約書がないというのは、普通のことなのでしょうか?

【佐藤大和】事務所と芸能人が専属契約を結ぶ場合、普通は契約書を作るべきです。ここ10年ぐらいで、どこの事務所も契約書という概念は浸透しつつあると思います。もっとも、地下やご当地アイドルの約3割近くには契約書がないという調査結果もあります。

――基本的な話ですが、契約書がなくても契約は成立するのでしょうか?

【佐藤大和】法的には、契約書というのは、契約がある前提で、それを明確に証拠化するためのものであり、口頭でも契約は成立します。ただ、お互いに口頭だと「言った、言わない」の話になるので、ややこしくなります。ですが、芸能人側に立つ弁護士として言わせてもらうなら、正直、係争となった場合は契約書がない方が争いやすいんです。契約書がなければ、契約書の有効性について争わず、法律を前提に争うことができます。それを考えると、本来なら事務所側としても、契約書を作った方が自分たちの権利を守るためにはいいんですよ。まあ、契約書の内容が不公平なものであれば、芸能人側からは大問題なんですが。

――では、専属契約の契約書がない場合は、直営業をしてもペナルティを課されることはない?

【佐藤大和】今回の件で、吉本興業さんが処分に対して出したプレスリリース(6月24日発表)は、専属契約違反なのか、お金を受け取ったことに対して嘘をついたことなのか、何についての謹慎なのかがわかりにくかったです。結局は、反社会的勢力の人たちと接点を持ったことへの処分のように感じられました。でも実際は、反社の会合とは知らなかったということなので、あくまで結果責任だと感じています。 “闇営業問題”などと言われていますが、吉本興業さんの場合、専属契約書がなく、所属する各芸人さんもどのような契約内容かわからないと言っているため、「事務所を通さずに営業活動を行った」という契約違反による処分ではないわけで…。

――でも世論は、今回関わった芸人たちに対して非常に厳しい見方をしています。

【佐藤大和】本来なら、修正申告をして、無償でボランティアや詐欺撲滅運動に協力するなど、迅速に事務所が先導して謹慎処分中にやるべきことを提示すべきだと思います(7月13日に、修正申告と消費者団体などに寄付を行ったと発表)。もちろんこうしたことも、これまでの経緯から「形だけだろう」という批判が起こるとは思います。でもそれを恐れ、何もしないで沈静化を待つよりは、やった方が絶対にいい。リスク承知で、事務所主導のもと二人三脚で動くべきだと思います。

――芸人仲間の間でも、記者会見を開くべきという声がありますが?

【佐藤大和】僕はあまり得策だと思いません。先にも説明しましたが、今回の謹慎は、事務所が芸人に対し、何について処分を下したのかが見えていないんです。例えば薬物で逮捕など、明確な法律違反をした場合であれば、会見も有効だと思います。ですが本人たちがフワッとしたまま記者会見を行っても、記者に詰められて余計に論点がズレてしまう。それよりは、吉本興業さんが、調査対象を制限せず、しっかりと第三者委員会を作って取り組むことの方がよいと思います。

■「タレントの結果責任を批判しても根本は解決しない」、業界全体で枠組み作りを

――コンプライアンスという部分ではどのようにお考えでしょうか?

【佐藤大和】芸能事務所がコンプライアンス教育をして、反社会的勢力と繋がらないこと、法令遵守というのはもちろん大事。ですが、ちゃんと芸能人たちに響かせるためには、企業側ではなく芸能人側に立った弁護士が悩みを共有したうえで、一方的に伝えるのではなく、自分たちの問題なのだということをしっかり意識させて、初めて意味があります。

 芸能人というのは、常に人の目にさらされ、スケジュールも不規則なためにとてもストレスが多い。そんなとき、優しく声をかけ相談に乗ってくれる人の存在には、非常に心を動かされるものです。そういう中に、反社会的勢力の人がいる場合もある。芸能界というのは甘い誘惑が多い世界なんです。そういった所属タレントの心の部分までケアするのが芸能事務所の責任でもあり、専属契約を結ぶということは、そこまでしっかり見ることだと思います。

――冒頭に行政の指導が必要というお話がありましたが、今後、日本の芸能界はどのように進んでいくと思われますか?

【佐藤大和】契約書の問題もそうですが、行政が「法律違反」であると切り込めば、企業は対応しないわけにはいかない。独占禁止法違反の問題も、業界自体でしっかりと対応していかないと、日本のタレントやエンタテイナーはいつまでもたっても立場が弱いままだと思います。権利の意識と権利の向上、そして芸能事務所側がしっかりコンプライアンスを守らないと、日本の芸能界は世界とは戦えないと思います。今のままでは衰退の一方だし、事務所離れも進んでいくでしょう。

 昨今、芸能人を個人事業主として契約をしていながら、実態は労働者として働かせているケースも多々あります。労働者ならば、労働法令が遵守されるべき。残業にしても休日にしても、労働者は法令で守られているし、最低賃金もあります。でも個人事業主だと、そういった法令はまったく適用されない。大きな問題だと思います。

――今回の“闇営業問題”で、改めて感じたことは?

【佐藤大和】タレントの結果責任を批判しても、どうしてこういう問題が起きてしまったかの根本は解決されません。自己責任論というのはとても危ういものなので、事務所を含めた業界全体で、しっかりした枠組み作りが必要だと思います。

<プロフィール>
佐藤大和(さとう・やまと)。レイ法律事務所代表弁護士。2017年に、芸能人の権利を守る団体である「日本エンターテイナーライツ協会」を立ち上げ、共同代表理事を務める。エンタテインメント、芸能法務、マスコミ対応、企業法務、第三者委員会の対応などが得意分野。厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー事業」委員。『バイキング』(フジテレビ系)、『ビビット』(TBS系)など、メディアにも多数出演。

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